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法的性別変更の手術要件の撤廃を求める弁論が最高裁で開かれ、家事審判としては初めて審問も行なわれ、弁護士が涙ながらに訴えました

2023年09月27日

 トランスジェンダーの人が戸籍上の性別を変更するのに生殖能力をなくす手術を要件としている性同一性障害特例法の規定が憲法違反かどうかが争われた家事審判の特別抗告審の弁論が27日、最高裁大法廷(裁判長・戸倉三郎長官)で行なわれました。申立人側は「性別のあり方が尊重されるという基本的人権を侵害している」と訴えました。
 また、これに先立つ26日、当事者や支援者が都内で記者会見を開き、手術要件の撤廃を訴えました。

 今回と同様の裁判は以前にも行なわれていて、2019年、最高裁小法廷は「現時点では合憲」と判断、ただし、社会状況の変化に応じて判断は変わりうるとし、「不断の検討」を求めたほか、2人の裁判官は「憲法違反の疑いが生じていることは否定できない」という補足意見を述べていました(詳細はこちら)。今回は社会情勢の変化を踏まえ、年内にも改めて憲法判断が示される見通しです。
 申立人の方は、性別適合手術を受けていませんが、長年のホルモン治療で生殖能力が減退し、生殖の可能性は極めて低いため、要件を満たすと主張していますが、一審の家裁は、生殖不能要件を満たしていないとして性別変更を認めず、不服を申し立てた高裁支部も同様に判断したため、申立人が最高裁に特別抗告したものです。
 27日の弁論で申立人側は「女性として生活しているのに、法律上は女性と扱われないギャップがある」と語り、要件について「性別のあり方が尊重されるという人権を侵害しており、違憲だ。事情がある者だけに過度な負担を強いている」と訴えました。代理人は「申立人にとって、自身の困っていることを解決してくれるのは、最高裁の裁判官だけです。本人が自らの性別で安心して生きられるような判断を、心からお願いします」と訴えました。
 
 最高裁での弁論の後、代理人を務める南和行弁護士と吉田昌史弁護士が記者会見を開きました。
 吉田昌史弁護士は「大法廷で丁寧に審理してもらえたことはありがたい。法制度が改正されないと問題は解決しないので、司法のメッセージや判断がどのようになるのか気になっている。当事者本人が望む結論を期待しているし、現在の法律で苦しんでいる人も多くいるので、さまざまな人が生きやすい社会制度を後押しするような判断を期待したい」と語りました。
 また、南和行弁護士は、26日に大法廷で申立人本人の意見を聞く非公開の審問が行なわれたと明かしました。最高裁が家事審判で審問を開いたのは初めてです。今回、申立人はプライバシーへの懸念から公開の弁論には出廷せず、弁護士が15人の裁判官を前に、時折声を詰まらせながら、用意した原稿を15分ほどかけて読み上げました。自身の性別のあり方が尊重されることは憲法が保障する基本的人権である、性別変更に手術が必須なら、そのような特例法の規定は極端に過度な負担を強いるもので、幸福追求権を定めた憲法13条や、法の下の平等を定めた憲法14条に反し、無効だと訴えるもので、申立人は「心からの声を言うと、もう男性としては生きていけません。変更を認めてくださると私の人生は助かります」と語っています。最高裁は事案の重要性を考慮し、審問を開いたものと見られます。南弁護士は「今まで聞いてほしかったことなのか、途中で言葉を詰まらせる場面もあった。いずれの裁判官も熱心に耳を傾けていた」と語りました。

 4年前の審理は最高裁の小法廷で行なわれましたが、今回は15人の裁判官全員による大法廷で審理され、また、当事者の主張を聞く弁論を開くことなどから、新たな憲法判断が示される可能性があります。
 あるベテラン民事裁判官は「4年前はギリギリの合憲判断。今回は大法廷で審理されており、違憲に変わる可能性は十分にある」と見ているそうです。
 なお、法的性別変更は、当事者が家裁に申し立て、裁判官が認めれば、戸籍上の性別の変更がなされます。一連の手続きに行政は関与しておらず、今回の訴訟でも、国は主張を述べることがありません。

 最高裁の判断は年内にも示される見通しです。

 
  
 最高裁での弁論の期日に先立ち、LGBT法連合会が26日、都内で記者会見を開き、手術要件の撤廃を訴えました。
 トランス男性の木本奏太さんは「200万円という高額なお金を払って体にメスを入れ、子どもを残せないようにすることが戸籍を変える条件だと知ったときは絶望に近い感情だった。不妊化の要件がなく、戸籍を変更できる環境であれば手術はしなかったと思う。自分の体のあり方は国やほかの誰かが決めることではない。自分が望む性で自分らしく生きられる社会が前提であってほしい」と語りました。
 トランス男性の杉山文野さんは「自分と向き合った結果、子宮や卵巣を取る手術はしていない。ホルモン投与で見た目もだいぶ変わったが、トランスジェンダーを理由に就職を断られたり、パスポートの表記と見た目が合わずに入国拒否にあったりと、戸籍上の性別が合わないとトラブルになることに変わりはない。自分の意思で手術を望む当事者に対しては選択肢があるべきだが、望んでいない人にまで手術を強いる形になっている今の法律は人権侵害だと感じる」と訴えました。杉山さんは友人男性から精子提供を受け、パートナーの女性とともに2人のお子さんを育てていますが、戸籍性は女性のままであるため、パートナーの方と結婚もできず、2人のお子さんと養子縁組し、法律上は「養母」になっているといいます。「当事者の実生活と書類上の表記がちぐはぐになっていることで、多くの生きづらさを生んでいる。一刻も早い法改正を心から望んでいる」
 4年前に申立てを行ない、最高裁まで争った臼井崇来人さんは、「ホルモン治療をして副作用も出たので、手術を強要されるのはやっぱり居心地が悪いと思います。自分が否定されているような感じ」と語りました。7年前からパートナーとその長男と3人で暮らしていますが、戸籍上は同性どうしであるため、婚姻ができず、「子どものマイナンバーカードが来ても取りに行けないなど、困り事を突き付けられ」といいます。「家族じゃないんだみたいな」「手術を必要としていない人やできない人たちが一定数いるのが可視化されてきたなか、手術要件をこのまま続けていくか立ち止まって、何がいいか考えてもいいのではないか」
 GID学会の理事長を務め、医師として当事者の診療にあたっている岡山大学の中塚幹也教授もオンラインで会見に参加し、「多くの当事者と接していて、手術をしたい人もいれば、したくないという人、医学的にできない人などさまざまな状況の人がいる。手術をするかどうか選択できる状況にすることが重要だ」と述べました。
 
 現行の性同一性障害特例法では、戸籍上の性別を変更するためには(1)18歳以上であること、(2)現在結婚していないこと、(3)未成年の子がいないこと、(4)生殖腺(卵巣や精巣)がない、またはその機能を永続的に欠いていること、(5)変更する性別の性器に似た外観を備えていることという、5つの要件を満たしていることが要件とされています。(4)と(5)は性別適合手術を受けることを必須とするもので、法的性別変更がしづらい、ハードルの高さの原因になっています(WHOは2014年に不妊手術を課すのは人権侵害だとしています。世界的には手術を不要とする流れになっています。詳細はこちら)。しかし、就職や結婚などのために、やむをえず手術を受ける人も少なくありません。
 もし最高裁が、こうした当事者の困難や国際情勢に鑑み、(4)と(5)を違憲だと判断すれば、不妊(断種)手術は不要になり、トランスジェンダーの人権回復は大きく前に進むことになります。
 実は、今回の申立てでは、一審にあたる家裁も二審の高裁も(4)を満たさないことを理由に性別変更を認めないとしましたが、(5)の外観要件を満たすかどうかについては判断していません。最高裁の審理では、下級審で確定した事実認定をもとに法的な判断を下すのが原則で、このため、(4)の生殖不能要件についてはほぼ確実に憲法判断を示すとみられますが、下級審が判断していない(5)について独自に見解を示すかどうは不透明です。
 この点について、トランス女性の野宮亜紀さんは、仮に最高裁が(4)の生殖不能要件のみを違憲とすれば、「トランス男性は救済されるが、トランス女性は救済されない」との懸念を表明しています。トランス男性とトランス女性では、性別変更を申し立てる際の手術の実態に違いがあるためです。
 GID学会理事で、トランスジェンダーの医療に詳しい針間克己医師も、「トランス男性は性別変更にあたって外科的な手術が不要になるのに、トランス女性は今と変わらず手術が必要という不平等が生じかねない」と述べています。

 トランスジェンダーの人権に詳しい大阪公立大の東優子教授(性科学)は、「『性と生殖に関する健康と権利』は、私の体は私のもので、私の体については自分以外の何者も決められないという考え方だ。生殖不能要件だけでなく、外観要件もこれに著しく反しているのは明らかで、両方について違憲判断が下されるべきだ」と述べています。
 

参考記事:
“戸籍の性別変更に手術必要”は憲法違反か 27日最高裁で弁論(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230926/k10014207021000.html
戸籍上の性別変更要件 最高裁で初弁論 前日に異例の「審問」も(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230927/k10014208211000.html
性別変更に「手術」は必要か? 「手術の強制は重大な人権侵害で憲法違反」当事者の訴えに最高裁の判断は…(日テレ)
https://news.ntv.co.jp/category/society/542403282ebc4329886b447c25d90335
“性別変更に手術が必要”は憲法違反か 最高裁で弁論 当事者の訴え「人権侵害」「手術の強要は自分を否定されている気持ちに」(TBS)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/745798
性別変更「手術要件」巡り 最高裁大法廷で9月に弁論 改めて憲法判断へ(テレ朝)
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000304976.html
「戸籍上の性別変更に手術が必要」規定は憲法違反か 最高裁で弁論(FNN)
https://www.fnn.jp/articles/-/592675
戸籍の性別変更、再び憲法判断へ 手術要件巡り、最高裁大法廷(共同通信)
https://nordot.app/1079641945072304305
性別変更、手術要件で弁論=申立人側「人権侵害」訴え―年内にも憲法判断へ・最高裁(時事通信)
https://sp.m.jiji.com/article/show/3057846
性別変更規定、年内にも憲法判断へ 最高裁大法廷で弁論(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE252IT0V20C23A9000000/
性別変更の手術要件「撤廃すべき」 最高裁弁論前に当事者が訴え(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR9V6HPMR9VUTIL00W.html
「本来の性別で生きたい」 性別変更に手術課す違憲性、最高裁で弁論(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR9V62ZYR9SUTIL00K.html
トランス女性に「不平等」の恐れも 性別変更の要件、最高裁どう判断(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR9V7HX3R9NUTIL027.html
「生殖不能手術なしでも性別変更可能に」 最高裁で違憲性訴え(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230927/k00/00m/040/048000c
「4年前はギリギリ合憲」…違憲の予想も 性別変更巡る生殖不能手術(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230927/k00/00m/040/053000c
「自分の体の自己決定権への不当な介入」 性同一性障害特例法巡り当事者らが会見 27日に最高裁弁論、年内にも判断(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/279862
「私はもう男性として生きていけない」 手術なしの性別変更、声詰まらせ訴え 違憲訴訟で最高裁弁論(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/280135

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