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性別変更が認められた鈴木げんさんが会見、「君は無力じゃない。声を上げることで、たくさんの仲間ができて、社会は変わる」

2023年10月13日

 性別適合手術を受けなくても戸籍の性別を変更できるよう家裁に申し立てたトランス男性の訴えが認められた件について、申立人の鈴木げんさんと弁護団のみなさんが浜松市で会見を開きました。性同一性障害特例法の要件が憲法に違反するという司法判断は初めてで、画期的・歴史的な審判となったため、会場は祝福ムードで、鈴木げんさんも晴れやかな笑顔を見せていました。

 会見では、まず、弁護団の水谷弁護士から「手続きの概要」「本件の争点」「審判の概要」「本審判の社会的意義」について説明がありました。
「手続きの概要」
 家裁の審判というのは、誰かを相手取って訴訟を起こすのとは異なり、申立人が家裁に申し立て、あとは家裁が審理し、審判(判断)を下すというもので、性同一性障害の方が戸籍変更をする場合、家裁に申し立て、それを認める審判が下れば、申立人の住む自治体に、戸籍の記載を嘱託するという流れになります、という説明でした。(嘱託は今週か来週に行なわれるので、げんさんの戸籍性の変更は、もう少し後になるそうです)
「本件の争点」
 今回の申立ては特例法の5つの要件のうちの4つめに当たる「生殖腺(卵巣や精巣)がない、またはその機能を永続的に欠いていること」(以下、4号要件)について争うものだったということ、申立ての背景、人権侵害、憲法上の主張、審判の概要、社会的意義について説明がなされました。
 前提として、FtM(トランス男性)の方の場合、5号要件(男性に類似の外性器になっていること)はホルモン治療によっても満たされるため、性別適合手術は、ただ卵巣(子宮は生殖腺に含まれません)を除去するためのものになっているということがあります。
 特例法制定時は、当時の医療モデルを反映し、性別移行=手術とみなされていましたが、その後、海外でも日本でも社会が変化しており、社会生活を送れていれば、必ずしも手術を目標とはしなくなりました。今は特例法の要件があるおかげで、手術を受けることが「あるべき姿」との固定観念や社会的プレッシャーになり、本当は望んでいないのに手術を受ける方も少なくありません。
 現状、手術の負担を引き受けた場合も身体上のリスクや経済的な負担という不利益が生じ、手術を受けない/受けられない場合も社会生活上の性別と法的取扱の齟齬による不利益が生じ、どちらを選んでもしんどいのに二者択一が迫られることによる精神的な負担も生じています。
 4号要件の存在により、当事者は、性自認どおりの性別を尊重される権利(憲法13条)、身体の侵襲を受けない権利(憲法13条)、家族の維持形成の権利(憲法13条)、平等権(憲法14条)が侵害されています。と弁護団は主張しました。
「審判の概要」
 このような訴えを聞き入れ、静岡家裁は、4号要件がもたらす不利益を認め、社会的な混乱(親子関係など)は限定的であり、医学的な合理性は減少し、また、社会への配慮の必要性は社会状況の変化等で変わるとし、総合的に考慮し、人権制約の合理性はないと判断しました(審判書はこちら)。お手本のような判断でした。
「本審判の社会的意義」
・トランスジェンダーの権利回復
・手術を希望している人にとっての意義(様々な負担があるなか、プレッシャーから解放されて、適切なタイミングで手術を受けられるようになる)
・国内外から求められる人権侵害の是正を、司法手続きを通じて実現していく過程の一つ  

 続いて、堀江弁護士が「弁護団声明」を読み上げました。今回の審判を高く評価するとともに、これまでの同種の申立てや当事者による様々な奮闘のおかげでこの審判が実現したと謝辞を述べ、最後に3号要件(子なし要件)や5号要件の人権侵害についても解消されることを求めるものでした。

 それから、申立人である鈴木げんさんが語りました。
「ありがとうございます。これはみんなで勝ち取った審判だと思います。
 まだ実感が湧かないのですが、昨日、記者の方に「うれしいですか」と聞かれ、答えに迷いました。男として生きている僕が、戸籍が男になったというだけの話だからです。
 しばらくは、住民票や保険証を見て、ニヤニヤ、しみじみすると思いますが、その先は、目の前の書類に性別欄があるかどうかを意識しないくらい、当たり前になると思います。僕が求める日常、当たり前の毎日。自分のものではない性別表記に怯えなくていい生活。
 たくさんの子どもたちや仲間たちから、「大きな一歩ありがとう」という連絡をもらっています。それが本当にうれしいです。
 僕と同じように、この要件を「おかしい」と思いながらも、法律に従ってオペはするものだという前提で自分の人生を考えてきた当事者たちにとって、ここで選択肢ができました。
 生殖腺があってもなくても、戸籍性には何の関係もないのですから、純粋に選択できることが大切です。
 自分の体のことは自分で決めたい。これは人権問題です。
 4号要件は最高裁大法廷でも審理されている最中で、そんな時期のなかで、逃げずに、真っ当な判断を下してくれた家裁に敬意を表します。
 この先は、法律が変わることを望みます。国会議員のみなさん、よろしくお願いします。
 最後に、セクシュアリティのことに限らず、いま苦しんでいる子どもたちに伝えたいこと。君は無力じゃない、ということ。声を上げることで、たくさんの仲間ができて、社会は変わるということです」
 げんさんの人柄が伝わってくるような、同じしんどさを抱える仲間たちや未来の子どもたちのことを思う気持ちが温かい、ジーンとくるようなコメントでした。げんさん自身も後半は、涙声で語っていました。
 17ページの審判書を読みながら、同じ悩みを抱える人たちの顔が浮かんだといいます。「(審判は)僕だけのものではない。一緒に闘ったり、励ましてくれたりした仲間や、声をあげられない当事者たち。たくさんの人たちの生きやすさのために使うのが僕の課題だと思う」と語っていました。
 

 げんさんは、浜松市での「パートナーシップ宣誓制度」の実現にも貢献し、今年「はままつレインボープライド」を初開催するなど、地元のLGBTQコミュニティにとって本当に大切な活動をしてきた方であり、みんなに愛されている方です。
 そんなげんさんが、これまで何度もダメを出されてきた件についてあきらめずにチャレンジし、見事に違憲の審判と性別変更の権利を勝ち取ったこと、本当に素晴らしいですし、我が事のようにうれしく感じます。本当におめでとうございます!


【追記】2023.10.13
 LGBT法連合会が、【声明】性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律におけるいわゆる「生殖不能要件」に関する静岡家庭裁判所浜松支部の審判についてと題する声明を発し、今回の家裁の判断を高く評価しています。



参考記事:
「男として生きている僕の戸籍が男になったというだけ」初の司法判断を受け 申立人のトランスジェンダー男性が会見(静岡放送)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/sbs/776880?display=1
「手術せずに戸籍上の性別変更はできない」は違憲 全国初の司法判断 静岡家裁浜松支部(テレビ静岡)
https://www.sut-tv.com/news/day/23875/
性同一性障害特例法の規定が違憲と判断されたことに対し申立人は「性の多様性が当たり前の社会になってほしい」と語る(静岡朝日テレビ)
https://look.satv.co.jp/content_news/x/22362
性別変更の手術規定 は「違憲で無効」初の司法判断に申立人が会見「当事者たちに選択肢ができた」(静岡第一テレビ)
https://www.youtube.com/watch?v=qRtSj2chy-M
性別変更認められ申立人が会見 表記におびえなくていい毎日に(共同通信)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/283528
法律変わって」申立人喜び 性別変更規定の違憲判断に 静岡(時事通信)
https://sp.m.jiji.com/article/show/3072572
「多くの人の当たり前が僕にも」 性別変更の手術要件「違憲」で会見(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASRBF6Q7PRBFUTIL03B.html

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