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【特例法要件最高裁憲法判断】多くの新聞社が社説で速やかな法改正を訴えています

2023年10月27日

 最高裁が違憲判断を示した後、全国の新聞社が続々と、社説を掲載しています。その多くは、判決を評価し(一方、外観要件の差し戻しを批判し)、速やかな法改正を訴えるものです。世論形成や法改正に向けた動きにも一定の影響をあたえると思われる新聞各紙の社説でどのように述べられているか、20紙近い新聞社・通信社の社説をダイジェストでご紹介します。全国メディア、地方紙(北から順)の順でご紹介します。
 

◎日経新聞「[社説]「違憲」判断受け性別変更の法改正急げ
「今回の大法廷決定を受けて、国は特例法の改正を急ぐべきだ。その際、違憲とされた部分だけを議論の対象にするのではあまりに狭いだろう。外観の規定などについても、幅広く議論し、必要な見直しをすることが欠かせない。そもそも、合憲とした19年の決定もあくまで「現時点では」であり、「憲法適合性は不断の検討を要する」と述べていた。この問題をめぐっては、「自分は女だといえば、だれもが自由に女湯に入れる」といった誤った言説も見られる。正しい理解の促進と、だれもが安心して生き生きと暮らすためのルールづくりを、政府や国会が率先して進め、不安をなくしていくべきだ」

◎毎日新聞 社説「性別変更に手術「違憲」 権利を守る大きな一歩だ
「性的少数者への対応で、欧米諸国から大きく遅れている日本の現状に対し、司法が改善を迫ったものだ」と指摘したうえで、「政府や国会は、早急に特例法を改正しなければならない」「最高裁は、法律が憲法に違反していないかどうかを審査する権限を持つ。三権分立の理念を踏まえ、政府や国会は、その判断を尊重しなければならない」としています。また、「性自認は自分の意思で変えられるものではない。当事者たちは、公共性との兼ね合いを考えながら生活している。そうした現実への理解を広げ、偏見をなくす必要がある」とも述べ、同性婚の法制化にも触れながら、「性的指向や性自認を理由に、不利益を被ることがないよう、権利を保障するための法制度を早急に整えるべきだ。差別を禁止する法律も不可欠である。性的少数者が生きづらさを抱えるような社会は、改めなければならない」と結んでいます。

◎朝日新聞「(社説)性別変更決定 人権見つめ法の是正を
「自分の法的な性別を、みずから認識している性別に合わせたい。その切実な望みに、法は長く、過酷な条件を突きつけてきた。国会はただちに是正しなければならない」「法的な性別変更に一律に手術を求めることには、特例法の制定当初から懸念の声があった。見直しを怠ってきた国会の責任は重い。違憲とされた規定と併せ、外観についての規定も、裁判所の判断を待つことなく、自ら見直しに臨むべきだ。当事者への誹謗中傷をはじめ、見過ごせない差別もいまだある。尊厳を守る法整備に、遅ればせながら取り組まねばならない」 

◎共同通信・出口修記者による論説「性別変更要件「違憲」 LGBT尊重の出発点に
「今回の「法令違憲」を性的少数者の権利を尊重する本格的議論の出発点とすべきだ。多岐にわたる課題を解消する法整備が不可欠であり、国会が議論を主導しなければならない」と述べられています。さらに、外観要件について審理を高裁に差し戻したことについて「大法廷の基本的考えは不妊要件で示されており、外観要件についても自ら判断すべきだった」「高裁には早期に審理を進め、性別変更を認めるよう求めたい」としています。そして、「多数決を基本とする民主主義は、宿命的に少数者の人権問題の解決が苦手なのかもしれない。その点を補い、少数者の人権を守る役割を担うのが司法であろう。最高裁はその方向性を示した。次は立法府の番だ。多様性を認める社会の実現を急ぐべきだ」と結ばれています。

◎北海道新聞「<社説>手術要件「違憲」 多様な性認める社会に
「性自認に従った扱いを受ける法的利益を重視して、要件は著しい人権侵害と認定した。国会は直ちに特例法を見直すべきだ」「戸籍上の性別変更を望む人たちにとっての障壁は、速やかに取り除かねばならない。大法廷は二つの要件を切り離さず、全体として違憲とすべきではなかったか」「体の外観を巡り、男性の姿をした女性が公衆トイレや浴場などに入るようになれば社会が混乱するという不安も聞かれる。だが、性的少数者の人権は尊重されるべきだ。解決の道を探る社会的な議論が欠かせない。多様な性のあり方を認め合える包摂の社会を目指したい」と述べられています。
 
◎新潟日報「性別変更要件 「違憲」踏まえた法制度を
「体を傷つけずに、望んだ性で生きる道が開かれた。自認する性が尊重され、不利益や不自由を被る人がないよう法制度を変えていかねばならない」「「社会の混乱や急激な変化を避ける」といった目的で設けた制約の合理性は低くなったと解釈するのが自然だろう」「人権侵害を避け、自己決定や尊厳を尊重する仕組みが求められる」「性的多数者は少数者の実情を知らず、無意識に偏見を抱いていることが少なくない。法改正には混乱や曲折も予想される。性同一性障害の人がどう思い、どう生活しているか、社会全体で理解を広げたい」と述べられています。

◎信濃毎日新聞「〈社説〉性別変更の要件 人権尊重した違憲判断
「半歩だけ前進した」という独自の書き出しで、外観要件について判断せず、高裁に差し戻したことについて「最高裁は、今回の決定で「(生殖機能の要件は)当事者に手術か性別変更断念かの過酷な二者択一」を迫っていると判断した。それなら外観要件も同じだ。判断の先延ばしは不合理だ」と述べています。また、「手術要件が縮小、廃止されていけば、性別変更を審理する家裁の判断では、医学に基づく正確な診断がより求められる。現在、診断ができる医療機関はほぼ大都市部に限られ、医師数も少ない。医療機関は社会的な状況を鑑みて、態勢の充実に向け努力するべきだ」とも指摘されています。そして「気になるのは、外観要件の是非が銭湯やトイレの利用で問題とされ、トランスジェンダーに対する根拠のないヘイト(憎悪)を生む要因にもなってきたことだ。手術要件の縮小でこれが強まることは看過できない。漠然とした不安だけで、ある属性の人全体に憎悪を向けるのは差別であると、社会全体が改めて認識する必要がある」と、的確に、力強く結ばれています。

◎中日新聞 社説「性別変更要件 人権重視した新法こそ
「性自認に基づく法的な取り扱いは重大な権利で人権の問題といえる。最高裁の「違憲」判断はこうした要請に応えるものだろう」として、先日の静岡家裁の違憲判断にも触れながら、「最高裁の判断はこうした変化に沿ったものでもある」と評されています。さらに「もはや、特例法自体を廃止すべきではないかと考える。性別変更を制限する要件の問題は、手術以外にもあるからだ」として、成年、未婚、子なし要件を挙げ、「性別変更を不当に制限するものではなかろうか」との主張を展開、「特例法は医学的な見地を重視して制定されたが、戸籍上の性別変更は、社会生活のさまざまな場面で身分証明の一つとなる重要な法益である。それゆえ性自認に従って戸籍上の変更手続きができる人権重視の新法の制定が必要だ。同時に政府や自治体には、トランスジェンダーに対する理解を深めるための施策をさらに講じるよう求めたい」 としています。

◎京都新聞「社説:性別変更裁判 人権守る法の見直しを
「多様性を認める社会に向け、議論を深める契機とすべきだろう」と書き出し、外観要件についての判断が高裁に差し戻され、要件が残ってしまう可能性があることについて「懸念は京都の当事者からも出ており、課題を積み残した」「今回の最高裁決定では、外観要件に関して「社会生活上の混乱が生じることは極めてまれ」との個別意見が付されたことも重く受け止めるべきだ」と述べられ、「法改正では、生殖能力要件にとどまらず、性別を巡る苦悩を「障害」と呼ぶ法の考え方を含め、抜本的な議論を求めたい」と結ばれています。

◎神戸新聞「<社説>手術要件は違憲/司法が認めた社会の変化
「自認する性で生きるために、体にメスを入れなくてはならないのか。その葛藤は想像を絶する」というエモーショナルな書き出しになっています。そして、最高裁大法廷の今回の判断について「当事者の苦悩に向き合い、健康と尊厳を優先した姿勢は評価できる」としながらも、「一方、外観要件については差し戻したため、申立人本人の性別変更は認められない。意に反して体にメスを入れる点で問題は一緒だろう。実態に沿った再審理が求められる」と指摘しています。「課題は残るが、新たな司法判断はより多くの当事者に性別変更の道を開くことになる。半面、トランスジェンダーのトイレ利用を懸念する声が上がるなど、社会の理解が深まったとは言い切れない動きもある。誰もが「心の性」のまま生きやすい社会を実現するために、一人一人が考えるきっかけにしたい」

◎中国新聞 社説「性別変更要件「違憲」 少数者の人権守る法改正を
 最高裁判断を「社会情勢の変化を踏まえ、性的少数者の人権や生き方を尊重する方向にかじを切ったといえる」と評価しながらも、外観要件の判断を高裁に差し戻した件については、「大法廷が自ら判断すべきだったのではないか。3人の裁判官が「違憲であり、性別変更を認めるべきだ」とした反対意見を支持したい」としています。また、「国会が議論を深めてこなかった結果、性的少数者の権利保護は後手に回ってきた。速やかに法改正の議論を始め、誰もが自分らしく生きられる社会への一歩にすべきだ」「最高裁判断を待つまでもなく、施行から19年余りの特例法は、抜本的な見直しが要る段階にある」と述べ、さらに「手術への抵抗感から変更できず、生きづらさを抱え、日常生活で不利益を被っている人がさらに大勢いることがうかがえる」と当事者のリアリティに寄り添う姿勢を示しながら、「与党自民党が、伝統的な家族観を重視する保守派に配慮し、環境づくりに消極的な姿勢をとるのが気がかりだ。少数者の人権や、変化する社会情勢から、目を背け続けるのはもはや許されない」と結ばれています。

◎山陽新聞 社説「性別変更の要件 人権重視の法整備を急げ
「違憲判断を受け、国は特例法の速やかな見直しを求められる。改正を巡っては違憲とされた要件の削除にとどまらず、外観要件を含めて幅広く議論すべきだ。「未成年の子がいない」という要件も他国にはほとんどないとされ、当事者からは見直しを求める声がある。国内外の状況変化と、何より切実な当事者の声を踏まえ、人権を重視した法整備を急ぐ必要がある」と述べられています。

◎高知新聞 社説「【性別変更の手術】違憲判断の先が重要だ
「これまで深刻な不利益を課されてきた性的少数者の尊厳を守る決定」と評価され、「社会の偏見や差別をさらになくす流れにもつなげたい。政府や国会には決定を重く受け止め、速やかに法改正をするよう求める」と述べられています。「手術は経済的な負担が大きいだけでなく、精神的な苦痛を伴い、後遺症となる例もある。法がそれを求めるのは問題であるとの認識は当然であろう」「大法廷の判断は遅すぎる感はあるが、大法廷は判断変更に当たり、社会の性同一性障害への理解が進んでいる点に触れた。国内外の動きが司法を突き動かした面はあろう」「外観要件も見直さなければ問題は解決しない」「法改正も自民党保守派の反発で曲折が予想されるが、大法廷による違憲判決は極めて重い。4年で判断を改めた状況を見ても、国会論議の停滞は許されない」

◎西日本新聞「【社説】戸籍の性別変更 実態に合わせて法改正を
「戸籍上の性別とのはざまで苦しむ人を救済する画期的な司法判断だ。性自認に沿って自分らしく生きられる社会へ大きく踏み出したい」と評価しながら、「とはいえ、ようやく世界の標準に近づいたに過ぎない」として、多くの国が手術要件を撤廃していることに触れながら、「世界の制度の根底には、自分の体のことは自分で決める「リプロダクティブ権」(性と生殖に関する権利)の考えがあるが、日本ではまだ浸透していない」「「未成年の子がいない」という国際的にまれな要件も残っている」と指摘しています。さらに、「戸籍が男性になった後も出産でき、社会が混乱するといった不安」に対しては、「国会は速やかに特例法改正に着手し、こうした懸念も議論すべきだ。ホルモン療法を一定期間受けている、社会的にその性別で暮らしている実績があるなど、新たな要件も含め実態に合った制度にする必要がある」としています。

◎熊本日日新聞「<社説>性別変更手術 人権と尊厳守る法改正を
「性自認を重んじる司法判断を、国民的課題として受け止めたい」「高裁が速やかに審理するのはもちろん、国会は不妊要件とともに外観要件を外す方向で見直し論議を進めてほしい」と述べられています。さらに、外観要件の撤廃に「男性器のある人が女性を自称すれば、女湯や女性トイレに入れる」などと不安視する声に対して「極論に過ぎよう」「裁判官の反対意見が、女性の懸念に理解を示した上で「混乱が生じることは極めてまれ」と指摘した通りだ。女性用スペースの運用ルールを明確にし、それを徹底すれば秩序は維持できるのではないか」と釘を刺しています。そして「特例法改正には、伝統的家族観を重んじる自民党保守派などの反発も予想されるが、違憲判断を軽んじてはならない。性的少数者への差別を禁止するなど、新たな法整備も視野に入れるべきだ。あらゆる人権を尊重し、生きづらさをなくす手だてを尽くしたい」と結ばれています。

◎沖縄タイムス「[社説]性別変更要件「違憲」 望む性 生きる出発点に
「体にメスを入れる手術は性別変更の重い足かせになっていた。命に関わるかもしれない手術の強制は人権侵害そのものだ」「自認する性で生きることの重要性が認められたという点で歴史的な判断といえる」としたうえで、「国内では「トランス女性が女子トイレや女湯で犯罪を起こす」といった憎悪をあおる言説が絶えないが、(3人の裁判官による)反対意見は、社会に与える混乱は限定的とくぎを刺す」「性的少数者の権利保障を求める声は強まり、世論も多様な性、家族の在り方を認める方向に大きく動いている。最高裁の今回の判断は、むしろ救済に後ろ向きな国への警鐘と捉えるべきだ。立法府には、外観要件を含めた一体的な見直しを求めたい」と述べられています。

◎琉球新報「<社説>性別変更要件「違憲」 特例法の全面見直し急げ
「重い違憲判断が示された。性的少数者の人権を守る一歩としなければならない」「体にメスを入れるか、性別変更を断念するかという「過酷な二者択一」を迫ることは性的少数者の人権を侵害するものであり、改正を急ぐべきだ。外観要件についても反対意見を踏まえた高裁判断が求められよう」「特例法の改正は時代の要請と言っていい」「性多様性の尊重という世界的な潮流から日本が立ち遅れてはならない。そのことを踏まえた論議を求めたい」


 このように、多くの新聞社が、トランスジェンダーの権利回復(人権侵害の解消)の観点から今回の最高裁の違憲判断を評価し、また、大半が外観要件についても最高裁で違憲判断を出すべきだったのではないかとしています。WHOの「国際疾病分類」から「性同一性障害」の概念が廃止されたことを踏まえて「障害」とすることに疑義を呈したり、特例法自体を見直し、2020年の日本学術会議の提唱と同様の(国際社会の趨勢となっている)「医学モデル」から「人権モデル」への転換を、と論じるところもありました。実はこれら以外に2紙、最高裁判決で丁寧な反論がなされているにもかかわらず、まだ“ペニスのついた自称女性が女子トイレや女風呂に入れるようになる”などといった根拠のない(当事者の実態を無視した)言説に基づく「懸念」を表明している新聞もありましたが、最高裁判断を無視してまで…との驚きを禁じえません。信濃毎日新聞が述べているように、「漠然とした不安だけで、ある属性の人全体に憎悪を向けるのは差別であると、社会全体が改めて認識する必要がある」のではないでしょうか。
 

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