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REVIEW

ドラァグでマジカルでゆるかわで楽しいクィアムービー『虎の子 三頭 たそがれない』 

コロナ禍のサンパウロで製作された、HIV陽性だったりする若いクィア3人のドラァグでマジカルでゆるくてキュートな1日を描いたとても面白い映画でした。TOKYO AIDS WEEKSの企画としてトークショー付きで上映されました

ドラァグでマジカルでゆるかわで楽しいクィアムービー『虎の子 三頭 たそがれない』 

 TOKYO AIDS WEEKSの企画として、ぷれいす東京とノーマルスクリーンが共催したイベント「映画『虎の子 三頭 たそがれない』東京初上映+トーク」が12月7日、渋谷ユーロライブで開催されました。この映画『虎の子 三頭 たそがれない』は、ブラジルのクィア映画で大注目の監督グスタボ・ヴィナグリがサンパウロで撮った、極右ボルソナロ政権下のブラジル社会を皮肉とユーモアたっぷりに描ききった作品です。2022年のベルリン国際映画祭でテディ賞最優秀長編映画賞を受賞しています。今回が東京初上映となります。上映後にラビアナ・ジョローさん、GOGOのTENさん、風間暁さんによるトークショーもありました。その模様をレポートします。


映画『虎の子 三頭 たそがれない』レビュー

<あらすじ>
近未来のサンパウロ。資本主義とウィルスが充満したこの街で生きる若いクィア3人。脳に影響を及ぼすウィルスが街にひろがり人々の記憶力は低下。国家は独裁政権や植民地主義の歴史を忘れているようだ。そんな状況下、3人がHIVと生きる体験を共有したりインフルエンサーに出会ったり頼りない大人たちと時間を過ごしながら、どこかへ導かれる。






 とても面白かったです。DRAGムービーでもあり、DRUGムービーでもある、映画的・演劇的な面白さが随所に炸裂するラブリーなクィアムービーでした。こういう映画をもっと観たい!と思いました。

 記憶障害を引き起こすウィルスが蔓延し(COVID-19の後遺症であるブレインフォグのことをパロディにしていると思われますが)、みんなマスクをして、消毒用のスプレーを携帯し、何かあると手指を消毒し、口の中にも顔にもまぶし、ということを何度も何度もやっています。そんな中、緊急事態宣言ならぬ「黄金の局面」という意味がよくわからない政策が打ち出され(「黄金の局面」を茶化すTikTok動画が作られたり)、イザベラは受けるはずの試験が突然中止になったことを知ってショックを受けます。CAM4のオンラインチャットで金を稼いでいるルームメイトのペドロの甥(だけど同年代)のジョナタが訪ねて来ます。ジョナタはHIV陽性で、地元(北部の田舎街)では世間が狭すぎて診療を受けづらいのでサンパウロに出てきたのです。アーティストでもあるペドロは、描きたての、男性2人が裸で愛を交わす絵をポスターにして、ファシストの肖像を描いたポスターの上に貼ったり、ペドロのパパ(パトロン)に届けたりするのですが…というお話です。

 ドラァグクイーンが経営するペットショップが登場したり、男性2人が裸で愛を交わすポスターを見た男の子がママに「見ちゃダメ」と言われた後、金色の液体を吐き、エルトン・ジョン風のゲイに変身したりという素敵なシーンが随所に描かれているのですが、この映画のいちばんの見どころは、ペドロのパトロンの家で3人が(ブラジルでは普通みたいですが)ハッパを吸ったり、そのパパの友人で歌を歌ったり雑貨屋を営んだりしているミルタの家で(おそらく何かの成分が入っている)お茶をごちそうになったところから、これは夢なのか現実なのか?みたいな、みんながゴージャスだったりセクシーだったりハッピーだったりするシーンが展開されるところです。現実世界でペドロは最近、彼氏を亡くすというこのうえなく悲しい出来事に直面したのですが、その夢の世界では彼氏が生きていて、二人はセックスをしたり(しかも、とてもかわいい、ラブリーな感じで)、現実にはないお札の肖像画が動き出し、お札から飛び出して、思わず笑っちゃうようなパフォーマンスを繰り広げたり、本当にクィアでキャムプで面白かったです。ドラァグクイーンの方の歌うまっぷりにも魅了されました(プロなのでは?)
 
 コロナ禍の世相が反映され、誰もが感染しうる健忘症ウィルスのことが大げさに描かれているのとは対照的に、HIVという感染症のことは実に自然に、日常的なこととして描かれていたところがとてもよかったです(ゲイであることもまた、同様です)。Undetactable(検出限界以下)ということや、Untransmittable(感染させることがない)ということが、独特のかわいらしい、ポップな演出で描かれていたのも素敵でした。
 
 サンパウロの「自由の広場」という名前の広場が、かつて黒人(や先住民、犯罪者)の人たちが公開絞首刑にされていた場所で、名称が(白人の都合のいいように)変えられた今も、黒人の人たちは「絞首台広場」と呼んでいるという描写もあり、ゲイやHIV陽性者だけじゃなく、人種差別の問題にも触れられていたのが印象的でした。
 
 車がバンバン走る最も空気が悪そうな場所で3人が最も「青春」っぽい感じを出してるところとか、絶対ものすごく臭いだろうと思うような淀んだドブ川みたいなところで「バカンス」を楽しむシーンなどにも、都会でしか生きられないクィアのリアルや、キャムプな意匠を感じました。
 いろんな意味で素晴らしい、もっと観ていたいと思わせる映画でした。テディ賞受賞も納得です。

 
 
トークショー

 上映後、ラビアナ・ジョローさん(性教育パフォーマー)、TENさん(GOGO BOY)、風間暁さん(虐待サバイバーであり、薬物依存当事者である写真家、文筆家。バイセクシュアルの方だそうです)によるトークショーが行なわれました。

 ラビアナさんが「ご自身がどのキャラクターに似てると感じましたか?」「HIVの描かれ方について」「人種差別のこと」「おじいさんが『ウィルスも生きたいだけ』と語っていたこと」「HIVについて描く映画の有意義さ」といったテーマで次々にお話を聞いていくなかで、TENさんが、以前つきあっていた人が陽性だった、いろいろ話を聞いて、U=Uのことを学び、見方が変わったという素敵なお話をしてくれたり、風間さんが、ハッパを吸った後の描写がいかにリアルかということや、「4.20レアル」という現実にはないお札の4.20に意味があること、その肖像画の女性が飛び出して動き出すところとかもすごくよくわかる、というお話とともに、薬物依存で注射の回し打ちをする方が感染リスクが高い、自分もいま感染していないのはたまたまだと思っている、といったお話を当事者として語ってくれて、とても興味深かったです(ラビアナさんは、その話に関連して、海外では現実的な感染防止策として新しい注射針を提供している(いわゆるハームリダクション)という情報を伝えてくれていました)
 また、ラビアナさんがとてもブラジルに詳しくて、タイトルの「Três tigres tristes」がポルトガル語の早口言葉であるということや、サンパウロの街は(TENさんは2歳までサンパウロで暮らしていたそうです)、あらゆる壁がグラフィティだらけだという話や、男の子が吐いた金色のピカピカ光る吐瀉物は、現地のクィアの人にとってラメがプライドイベントでつけるようなクィアのシンボルだからではないかという見立てなどを教えてくれて、映画への理解が深まってよかったです。
 風間さんは最後に、この映画がボルソナロ政権下で世に出されたことが本当にカッコいい、スタンディングオベーションを送る、と語っていました(そのコメントがカッコよかったです)




 来週、12月14日(木)には、グスタボ・ヴィナグリが共同監督した映画『神はエイズ』の日本初上映と、豪華ゲストによるトークショーが開催されます。きっといい夜になると思いますので、ぜひ(詳細はこちら

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