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クィアを主人公とした2作品、安堂ホセさんの『迷彩色の男』、川野芽生さんの『Blue』が芥川賞候補に選ばれました

2023年12月29日

 12月14日、第170回芥川賞の候補となる5作品が発表されました。その中に安堂ホセさんの『迷彩色の男』、川野芽生さんの『Blue』というLGBTQを描いた作品も選ばれています(全候補作、選考委員などの情報はこちら

 
 『ジャクソンひとり』で第168回芥川賞の候補となっていた安堂ホセさん。今回の『迷彩色の男』は都内の会社で働くゲイの男性が主人公です。日本語を話しながら褐色の肌を持ち、職場でカムアウトしていない彼は、どこか秘密めいたところがある「ノンプレイヤーキャラクター」とキャラづけされています。彼はクルージングスポットでいぶきと名乗る同じく褐色の肌を持った26歳の男性と関係を持つようになりますが、いぶきはSEXの直後に突然、何者かによって殺されてしまうのです…。
 実際の物語はいぶきが亡くなる場面から始まり、主人公が警察の捜査対象になることでゲイであることが公になってしまうことに恐れを抱く描写もあるといいます。スリリングな展開ながら、「同性であれ、異性であれ、人の心や体に触れることは同じではないのかと感じさせる」ような「人間の感情は性的指向が違っていても通じ合えるという共感」をテーマにした作品だそうです。

 歌人としても知られる川野芽生さんの『Blue』は、高校の演劇部で活動する部員たちと彼らの卒業後を描いた物語です。共学になったものの女子が多い高校の演劇部員たちがアンデルセンの『人魚姫』を翻案したオリジナル脚本劇『姫と人魚姫』を上演しようとします。出生時に男性とされたことへの性別違和を抱き、女性になろうとする主人公や、自身を性的な対象としてみられることに嫌悪を覚える女子部員、性とは異なる次元で自分の体が好きになれない別の部員などが、自分の住む世界を捨てて人間の王子と結ばれようとする『人魚姫』の納得できないところや『姫と人魚姫』の脚本について議論します。簡単にわかりあえない、当事者でなければ理解できない高い壁の存在を痛感させるような作品になっているようです。


 これまでにLGBTQ(クィア)を描いた作品が芥川賞の候補になったり受賞したりということは、実は何度かありました。
 1996年、高校教師と生徒との同性愛関係を描いた『バスタオル』で福島次郎さんが候補になっています。
 1997年、クィアな閻魔ちゃんと同棲する主人公を描いた吉田修一さんの『最後の息子』が候補になりました。
 1999年にはトランスジェンダーの藤野千夜さんがゲイカップルやトランスジェンダーの人たちの群像を描いた『夏の約束』で見事に芥川賞を受賞しました。
 2017年には主人公がゲイである小説『影裏(えいり)』が受賞しています。
 2019年には、李琴峰さんの『五つ数えれば三日月が』が候補になりました(なお、李琴峰さんは『彼岸花が咲く島』で芥川賞を受賞しています)
 同年、千葉雅也さんの『デッドライン』が候補になりました。その続編ともいうべき『オーバーヒート』も2021年にノミネートされています。
 
 今回の芥川賞の候補となった安堂ホセさんの『迷彩色の男』、川野芽生さんの『Blue』、どちらかが受賞すると、主人公がクィアである作品の3度目の受賞ということになります。発表は1月17日です。期待して待ちましょう。
 


参考記事:
30歳前後による芥川賞候補作、底流する「やっかいな自分の受け入れ方」(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/columns/20231225-OYT1T50184/


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