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アイルランドのバラッカー首相が辞意を表明「政治家も人間で、限界がある。全力を尽くし、その後は立ち去る必要がある」

2024年03月21日

 アイルランドのレオ・バラッカー首相が20日、辞意を表明しました。

 レオ・バラッカー氏は2015年、保健相(厚生大臣)を務めていた時にアイルランドの閣僚として初めてゲイであることをカミングアウトし、同性婚推進を訴えました(同年5月、アイルランドは世界で初めて国民投票で憲法を改正して同性婚を認める国になりました)。そして2017年に与党・統一アイルランド党の党首に選ばれ、同国初のオープンリー・ゲイの首相となりました(インド系の人物としても初、移民の子孫としても初、また、アイルランド史上最年少の首相でもありました)。2018年、カトリック教徒が多数を占める保守的な気風のアイルランドで国民投票によって人工妊娠中絶の合法化を行なったことで注目されました。2020年まで首相を務めましたが、2020年2月の選挙で敗れ、第三党にとどまり、6月、第一党となった共和党や緑の党とともに連立政権を組むことで合意し、その一環として共和党党首であるミホル・マーティンと2年交代で首相を務めることになりました。そうして2022年末、バラッカー氏が再び首相に就任していました。

 20日、首都ダブリンの政府庁舎の階段で記者会見したバラッカー氏は、統一アイルランド党(フィナ・ゲール)の党首を即日辞任し、次期党首が決定し次第、首相職からも退くと表明しました。バラッカー氏は、自身が首相として国を率いてきた期間は「人生の中で最も充実した時間」だったと述べ、一方、辞任は「個人的・政治的な」理由によるもので、自分は「もうこの職に最もふさわしい人物ではない」とも述べました。「失業から完全雇用へ、財政赤字から財政黒字へ、緊縮財政から繁栄へ」アイルランドを導いたと、また「子どもの権利、LGBTQコミュニティ、女性の平等と体の自己決定権に関して、この国をより平等で近代的な場所にできたことを誇りに思う」とも語りました。自身の功績として保育へのアクセスを改善したことや、芸術・文化、国際開発、公共インフラへの政府支出を増やしたことを挙げました。

 アイルランドでは8日の国際女性デーに憲法の性差別的な表現2ヵ所(「家族という単位は結婚によって築かれる」「女性は家庭内での生活を通じてアイルランド国家を支える」)を変更するかどうかの国民投票が実施されましたが、大差で否決され、政府は敗北を認めていました(詳細はこちら)。英国メディアは、このことが辞任に影響しているのではないかと伝えています。

 バラッカー氏の辞任発表後、マーティン氏はこの決断に「驚いた」と語りました。「この場を借りて、心から彼に感謝したい。我々は非常にうまくやっていた」「連立政権が任期を全うすることに変わりはない」
 緑の党のイーモン・ライアン党首は、「エネルギーにあふれた献身的な国の指導者であり、政府の同僚たちを常にサポートしていた」と語りました。
 マイケル・D・ヒギンズ大統領は、20日の記者会見の直前にバラッカー氏から辞任の意向を伝えられ、会談しました。大統領報道官は「大統領は首相の功労に感謝した」としています。


 なお、バラッカー氏は政界入りする前は医師として働いていましたが、2020年4月、新型コロナウイルスのパンデミックに伴う医療現場での人手不足の状況に鑑み、首相職の傍ら、一人の医師として対応に追われる医療現場の手助けも行なっていました(実に立派な方ですね)。この報道を受けて『日経ビジネス』は「トランプ米大統領は新型コロナウイルスがもたらす脅威の大きさに気づきつつあるが十分とは言えない。学ぶべきはローマの賢帝とアイルランドの首相だ」「アウレリウス帝は私財を投げうち、貴族に課税し、疫病に対峙した。バラッカー首相は、感染拡大に苦しむ国の人々と「共にいる」姿勢を打ち出した」と称えました(詳細はこちら
 これまで欧州では何人かのオープンリー・ゲイの首相が誕生してきましたが、ローマの賢帝と並び称されるほどの人物はバラッカー氏だけだったのではないでしょうか。辞任はたいへん残念ですが、その功績や人柄、レガシーは永く語り継がれることでしょう。
 
 

参考記事:
アイルランド首相が辞任表明 人工妊娠中絶合法化などで注目(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240321/k10014397451000.html
アイルランド・バラッカー首相が辞意を表明 理由は明らかにせず(日テレ)
https://news.ntv.co.jp/category/international/797305289792431d82cdf79ac6c4adb4
アイルランド首相が辞任へ 「政治家も人間であり限界はある」同性愛者公言の同国史上最年少首相(TBS)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1065533
アイルランド首相辞任表明も理由の詳細語らず「個人的なものと政治的なものがある」2017年に38歳で就任(フジテレビ)
https://www.fnn.jp/articles/-/674019
アイルランド首相が辞意表明(共同通信)
https://nordot.app/1143172386962571485
アイルランド首相が辞意=国民投票否決が影響か(時事通信)
https://equity.jiji.com/oversea_economies/2024032100163
アイルランド首相が辞意「限界ある」 後任決定後に退陣(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR2043L0Q4A320C2000000/
(地球24時)アイルランド首相が辞任へ(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15891867.html
アイルランドのバラッカー首相、辞意を表明(BBC)
https://www.bbc.com/japanese/articles/cg3rx3gjvwxo
アイルランド首相、突然の辞意表明 来月後任決定へ(ロイター)
https://jp.reuters.com/world/europe/ETFJV5I4OZOABKQIPO2GONWNCQ-2024-03-20/
アイルランド首相、辞任を表明(CNN)
https://www.cnn.co.jp/world/35216731.html

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