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レポート:犯罪被害者給付金同性パートナー支給訴訟最高裁判決

3月26日、犯罪被害者の遺族らが受け取れる公的な給付金を同性パートナーが受け取れるかが争われた訴訟の上告審で最高裁が判決を下し、同性パートナーも犯罪被害者等給付金支給法(犯給法)の「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に含まれると明言されました

レポート:犯罪被害者給付金同性パートナー支給訴訟最高裁判決

こちらでお伝えしていたように、3月26日、犯罪被害者の遺族らが受け取れる公的な給付金を同性パートナーが受け取れるかが争われた訴訟の上告審で、最高裁第三小法廷(林道晴裁判長)が判決を言い渡し、同性パートナーも犯罪被害者等給付金支給法(犯給法)の「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に含まれるとしました。レポートをお伝えします。(後藤純一)


 前日からの雨が、3月26日にはさらに強くなっていました。
 14時過ぎ、最高裁の南口に傍聴を申し込む人たちが多数訪れ、傍聴は抽選となりました。残念ながら選に漏れ、立ち去る方もいらっしゃいました。運よく当選し、雨の中、順番に当選した人たちが裁判所入口へと案内され、階段を昇っていきました。コインロッカーに筆記用具以外の全ての物を入れ、さらに階段を昇って上の階の広い待合所に通されました。
 15時前に入廷し、満場の人たちが見守る中、5人の裁判官が入廷し、厳かな雰囲気のなか、判決文が読み上げられました。
 
 主文は「原判決を破棄する。本件を名古屋高裁に差し戻す」でした。
 理由が以下のように述べられました。
 犯給法5条1項1号は、死亡した犯罪被害者と民法上の婚姻関係にあった配偶者だけでなく、婚姻関係と同視しうる関係を有する者も受給の資格があると解され、「婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」は、婚姻の届出ができる関係であることが前提となっていると解するのが自然であり、(そういう意味では)同性の者が該当するとは解されない。
 しかし、犯給法は犯罪によって不慮の死を遂げた人の遺族等の精神的・経済的打撃を早く軽減し、再び平穏な生活を営むことができるよう支援するために犯罪被害者給付金を支給することにより、遺族等の権利利益の保護が図られる社会の実現に寄与することを目的とするものであり、この制度を充実させることが犯罪被害者等基本法の基本的な施策の一つとされていることにも照らし、犯給法5条1項1号の解釈にあたっては、制度の目的を十分に踏まえる必要がある。
 犯給法5条1項は、支給を受けられる遺族として、犯罪被害者の死亡により精神的・経済的打撃を受け、その軽減を図る必要性が高い者を掲げていると解される。そして、「婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」と謳っているのも、婚姻届がないため民法上の配偶者に該当しない者であっても、配偶者と同様に精神的・経済的打撃を受けると想定され、その軽減を図る必要性が高いからである。犯罪被害者と共同生活を営んでいてその軽減を図る必要性が高いのは、異性であるか同性であるかによって直ちに異なるものとは言えない。
 そうすると、被害者と同性であるということだけで「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当しないとするのは、制度の趣旨に照らして相当でないと言うべきであり、また、同性の者が該当すると解しても制度の文理に反すると言えない。
 以上から、被害者と同性の者は、「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当すると解するのが相当である。
 原審(名古屋地裁、高裁)の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があり、破棄を免れない。上告人(原告)が被害者と「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当するかどうかについてさらに審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
(判決の全文はこちら。林裁判官の補足意見と今崎裁判官の反対意見も掲載されています。林裁判長は補足意見で「あくまでも犯罪行為で不慮の死を遂げた遺族らの支援という特有の目的で支給される給付金についての解釈」と強調し、事実婚について取り決めた他の制度にも同様に適用できるかは制度ごとの検討が必要だと述べています。また、今崎裁判官は「判決で示した事実婚の解釈がほかの法令に波及することが想定され、社会に大きな影響を及ぼす可能性があり懸念がある」と述べています)

 最初に「破棄」と言われたり、「同性の者が該当するとは解されない」と言われたり、審理を差し戻すという判決だったこともあり、どういうことなのかよくわからなかった方もいらしたと思います(遠方からわざわざ来て傍聴していた友人もそのように語っていました)。同性カップルも当然対象です、すぐに支給を認めなさい、とスパッと言い渡すような感じではなく、よく聞くと確かに「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当すると明言してるし、これは喜んでいいんじゃない?どうなのかな?というようなもやがかかったような雰囲気で、同性カップルも事実婚と認められた、わーい!という(札幌高裁のような涙したり抱き合ったりといった)空気感では全くありませんでした。みなさん無言で法廷を後にしていました。
 確かに同性も含むと明言されましたし、一歩前進であることは間違いありません。
(なお、私は傍聴人に配られた事案の説明書(原判決や、争点についての簡単な説明)に憲法14条に違反するかどうかということも書かれていたにもかかわらず、判決では憲法に触れられていなかったので、最高裁が憲法判断を避けたと思ってしまったのですが、よく読むと、「同性パートナーが「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当しないと判断された場合に」との但し書きがついていました。勘違いでした…)


 15時50分に「旗だし」が行なわれるとのことで、建物を出てぐるっと回って正面玄関の方に向かい、激しさを増した雨の中、報道陣や傍聴に訪れた支援者の方たち50人くらいが、じっと待っていました。
 そして弁護団と原告の内山さんが現れ、「同性パートナーを犯罪被害者遺族と認める」「次は差戻審 名古屋高裁は速やかに不支給を取り消せ」との旗を出しました。堀江弁護士がコメントを述べた後、(ショックで声が出なくなった)内山さんのコメントが代読され(「ほっとした。パートナーを殺害された苦しみは同性でも異性でも変わらないのに、違う扱いをされることはおかしいと思っていた。今回、最高裁が同性パートナーも異性パートナーも同じだよと認めてくれてようやく安心できた」)、拍手が送られました。

 最高裁が犯罪被害者の同性パートナーも「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に含まれる(同性パートナーシップも事実婚相当である)と明言したことは、非常に大きな意義を持っています。
 差し戻された名古屋高裁は最高裁判断に則って判断し直しを迫られ、きっと支給を認める判決を出すでしょうし(あの「差別を放置する極めて残念な判決」といった批判を受けた「社会通念が形成されていない」判決の無念が晴らされることでしょう)、今後、同様に支給を申し出た方が門前払いされることはなくなります。
 そして今後、「結婚の自由をすべての人に」訴訟の高裁判決が5つ出るわけですが、今回の最高裁の判断を無視して進めることはできなくなるはずです。
(この後、弁護団声明で今回の判決の意義が語られるはずです。また続報をお伝えします)
 
 内山さんが被害に遭って10年、支給を求めて7年、裁判を起こしてから6年もの歳月が経ち、最高裁に来てようやく、被害に異性も同性も関係ない、同性パートナーも対象に含まれるという正当な判断をいただくことができました。これまで闘ってきたみなさんに(この後、まだ名古屋高裁の差戻審がありますが、ひとまず)本当におつかれさまでした、ありがとうございましたと申し上げたいです。
 

【追記】2024.3.27
 判決後に行なわれた記者会見の模様が報じられました。
 原告代理人の堀江哲史弁護士は「犯罪被害者給付制度の趣旨を踏まえて法の文言を解釈し、結論を導くという素直な法解釈がなされたものと評価している」と語りました。そして「今回の判決は、犯給法5条1項の解釈として示されたものであり、同様の文言を含む法律について判断されたものではない」としながらも、判決の中で「当該規定に係る制度全体の趣旨目的や仕組み等を踏まえた上で、当該規定の趣旨に照らして行うべきものであり、規定ごとに検討する必要があるもの」という林裁判官の補足意見がある点に着目し、「それぞれの法制度を解釈する時に、その趣旨目的に立ち返り『同性事実婚を保護する必要性がある場合、もしくは同性事実婚と異性事実婚を区別する合理的理由がない場合には、同性カップルや同性事実婚を保護の対象とする』という解釈の余地を開いたと理解できる」と語りました。
 一方、これから名古屋高裁で改めて審理されることについて弁護団は「非常に残念。愛知県は本判決を受けて速やかに遺族給付金を支給すべきで、審理をするのであれば名古屋高裁は速やかに請求認容判決を出すべきだ」という声明を出しました。最高裁が「同性パートナーも支給対象者に該当しうる」と判断したことで、差戻審では同性カップルであるということだけを理由に不支給を決定することはできなくなり、内山さんとパートナーが事実婚関係にあったかどうかの事実認定をすることになります。堀江弁護士は「本日の判決を踏まえて行政が実態審査を行ない、不支給の判断を取り消すこともできると思います。一日も早く、内山さんに支給が認められる方向に進むことを望んでいます」と語りました。

 有識者のコメントも報じられています。
 毎日新聞によると、京都産業大の渡辺泰彦教授(家族法)は今回の判決が与える影響について、「同性カップルが他の給付金を申請した場合、行政側が申請を認めないためには『犯給法とはここが違う』という合理的な説明をしなければならなくなる。同性カップルに法的保護を認める必要性は徐々に浸透しており、今後もこの流れは続くだろう」とコメントしています。
 東京新聞で渡辺教授は「そもそも同性であるために婚姻外の関係を法的に不利に扱うことは平等権に反する」「他の法令を巡り、今後、国や公的機関は、異性と同性を区別する合理的な説明や制度設計の再考を求められる。ドミノ倒しのように、解釈が見直されていく可能性は十分にある」とも述べています。
 LGBT法連合会の神谷事務局長は、自治体の職員への手当などで同性カップルの権利が保障されないケースを踏まえて「今回の判決が、各自治体で当事者の権利保障に関わる制度や施策を精査する契機になってほしい」と語っています。


参考記事:
最高裁が「同性パートナーも犯罪被害者給付金の支給対象者になりうる」とした理由。着目したのは「目的」だった(ハフポスト日本版)
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6602b367e4b0269c5d2d45ce
「ようやく安心できた」 犯罪給付金、同性パートナーも対象「事実婚と同じ」 最高裁初判断、高裁に審理差し戻し(弁護士ドットコムニュース)
https://www.bengo4.com/c_1009/n_17382/

同性カップルの法的保護、広がるか 犯罪給付金で最高裁「対象」(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20240326/k00/00m/040/355000c
最高裁判断があぶりだした「同性パートナーの不利益」 労災、扶養…いつまで放置? 犯罪被害者給付金訴訟(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/317534

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