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名古屋家裁が「婚姻に準じる関係」だとして同性パートナーの名字変更を認めました

2024年05月09日

 愛知県に住む男性が同性のパートナーと同じ名字への変更を求めた申立てについて、名古屋家庭裁判所が今年3月17日、「二人は夫婦と同様の、婚姻に準じる関係だ」として変更を認めていたことがわかりました。代理人弁護士が9日、明らかにしました。同様の事例は全国で3例目だそうです。


 申立てを行なったのは「「結婚の自由をすべての人に」愛知訴訟の原告である鷹見彰一さん(仮名)。6年前からパートナーの大野利政さん(仮名)と愛知県内で2018年から一緒に暮らし、2023年から養育里親として子どもを育てています。お二人は、法的な婚姻関係が認められないなか、結婚と同様の関係となることをお互いに約束する公正証書を作ったりしてきました。しかし、二人の名字が違うため、子育てをするなかで、事情を知らない周囲の人から不審に思われ、性的指向のカミングアウトを強いられるのではないかといった不安や、医療機関を受診した際に家族として認められず、面会ができなかったり、治療方針を決めることができなかったりするかもしれないという恐怖感が常にあったといいます。
 鷹見さんは「私が夜、救急で病院に運ばれたとき、名字が違うので同行していたパートナーが『どういう関係ですか』と聞かれたことがありました。パートナーは周囲にカミングアウトしていないため、そうした場面で説明するのはすごく勇気がいると思いますし、つらいと思います」と語っています。
 鷹見さんはこのような思いから、「パートナーと名字が違うことで生活に多くの支障が生じている」などとして昨年11月、パートナーと同じ名字への変更を求める家事審判を家裁に申し立てていました。

 これを受けて名古屋家庭裁判所は今年3月17日、変更を認める決定をしました。鷹見さんは先月、役所で手続きをしてパートナーの名字に変更したそうです。鷹見さんは取材に対し、「司法が真摯に向き合ってくれて、うれしかった」と喜びを語りました。
 
 名古屋家庭裁判所の鈴木幸男裁判長は「二人は子育てを中心とした安定した生活を継続していて、婚姻し、育児をしている異性どうしの夫婦と実質的に変わらない生活実態にあると認められ、夫婦と同様の、婚姻に準じる関係にあると言える」と判断。そして、二人の名字が違うことで、里子などが医療機関を受診する際、親族関係にあると思ってもらえず、場合によっては医療手続きに関与させてもらえなかったり、事情を知らない保育園の職員などに性的指向を明らかにする必要に迫られる可能性があり「社会生活上の著しい支障が生じている」と認めました。「二人のような、性的指向が少数派に属する者は日常生活のさまざまな場面で差別感情や偏見に基づく不利益な取扱いを受ける可能性があり、意に沿わないカミングアウトをしなければならない状況が生じることは、それ自体、社会生活上の著しい支障になると言える」として、戸籍法107条の「やむを得ない事由」に当たると判断し、名字の変更を認めました。

 代理人弁護士によると、今回の申立てに向け、法律上同性のカップルが氏の変更を許可された前例の存在を調査したところ、ごくわずかな前例しか見当たらず、判断にあたってどのような要素が重視されたのかも不明だったそうです。今回のは判断は極めて異例と言えると同時に、婚姻が法的に認められていない現状で、せめて名字だけでも同じにしたいと思いながらあきらめている同性カップルにとって希望の光となるようなものだったと言えます。代理人弁護士は「これまで同じような状況でも認められなかったり、最初からあきらめたりしていた人もいると思うので、勇気をもって申し立ててほしい」と話しています。
 
 大野さんは今回、名字の変更が認められたことについて「まだ法的には家族になっていないものの、病院などでの緊急時に関係性などを疑問に思われ、余計な時間を使う場面は減ると思います。不安は無くなりませんが、これまでの深刻な状態からは脱せたと思います」と語りました。
 鷹見さんは「異性の夫婦と同様だと認めたうえで、日常生活の中での支障だけでなく、『不必要なカミングアウトをしなければならない』という脅威についても家庭裁判所に指摘してもらえて涙が出るほどうれしかったです。結婚はできていませんが、家族に一歩、近づいたと感じ、うれしいという言葉だけでは言い表せません。私たちを見て、家族を持つことをあきらめない選択肢もまだあるのだと思ってもらいたいです」と語りました。

 家族法の専門家で、性的マイノリティの問題に詳しい早稲田大学の棚村政行名誉教授は、同性カップルについては各自治体の同性パートナーシップ証明制度など一定の保護を受けることができる制度の運用が進んでいるものの、こうした制度の効果は自治体や組織の中で認められた範囲に限られており、当事者にとって不安や不利益はなくならないと指摘しています。そのうえで、今回の判断について「認められている枠組の中で、運用で理解や保護を広げていくというやり方を一歩一歩、積み重ねていくことがマイノリティの人たちの権利擁護や法的地位の確立には必要で、この点を重視した今回の決定は画期的だ」と評価しました。そして「近年の社会情勢を踏まえて、マイノリティに対する理解を示している司法の大きな流れを表したものだ。こうした形で認められたことがほかの裁判所や裁判官にも影響を与えうるし、同様の申立てをする人も増えてくると思う」と述べています。


 鷹見さんがおっしゃっているように、名字が同じであれば病院や保育所などで何も追及されることなくスムーズに家族として認められるのに、不審に思われ(男性カップルが子育てしている場合、女性カップルよりも不審に思われることが多そうですよね…)同性パートナーだと関係性を証明することが必要になり、それは自身の性的指向のカムアウトを強制されることにほかならない、そういう『不必要なカミングアウトをしなければならない』脅威のことも家裁が認めてくれたのは、とてもうれしいですよね。当事者のリアリティに寄り添った、きめ細かな配慮が感じられる判断でした。

 一方、今回認められたこと(姓の統一)は、戸籍上同性のカップルが法律婚制度から排除されているがゆえに生じる甚大な不利益のうちのごく一部が解消されたにすぎない、ということも言えます。ほとんどの不平等は解消されないままですので、一日も早く婚姻平等の達成(同性婚の法制化)が望まれることに変わりはありません。
 また、結婚を望む同性カップルのなかにも、選択的別姓の実現を望む方や、結婚によって姓の変更を強制されると職場などで結婚の事実を知られ、結婚相手について詮索を受けることでカミングアウトを強制されるのではないかという不安を感じる方など、さまざまな方たちがいらっしゃいます。
 同性カップルが婚姻制度から排除されているなか、司法が二人を「夫婦と同様の婚姻に準じる関係」だと認め、異例の判断をしてくれたこと、姓の統一を望むカップルに道が開かれ、選択肢が増えたということが、今回の判決の重要な意義ではないでしょうか。
 
 棚村氏も述べているように、現行法で認められている制度的枠組の範囲内で、同性カップルが置かれている無権利状態の現状を少しでも解消すべく、運用によって一歩ずつ保護を広げていくことの意義は決して小さくなく、(自治体の同性パートナーシップ証明制度もそうですが)LGBTQコミュニティの人々が公にその存在や権利を認められたと感じられる、勇気づけられるという意味でも素晴らしかったです。
 
 
 なお、NHK東海の18:10〜のニュース「まるっと!」では、今朝の全国ニュースよりも詳しい報道がなされるそうですので、東海地方にお住まいのみなさん、ご覧ください。
 



参考記事:
「夫婦と同様」 同性パートナーへの名字変更認める 名古屋家裁(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240509/k10014443741000.html
同性パートナーの名字変更認める 名古屋家裁「婚姻に準じる関係」(共同通信)
https://nordot.app/1161097277311714264
「真摯に向き合ってくれうれしい」と申立人(共同通信)
https://nordot.app/1161103216392716535
同性パートナーの名字への変更認める 「婚姻に準じる関係」 名古屋家裁(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024050900522
同性パートナーと同じ名字へ変更認める「婚姻準じる関係」名古屋家裁(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASS590HZ0S59OIPE001M.html
名古屋家裁、同性カップルの名字変更認める 「夫婦同様の婚姻に準じる」(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20240509/k00/00m/040/106000c
同性パートナーは「婚姻に準じる関係」 名古屋家裁が名字の変更を認める(中日新聞)
https://www.chunichi.co.jp/article/896169

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