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シンガポールの首相が、男性同性間の性行為を違法とする刑法の条項の撤廃を表明しました

2022年08月21日

 シンガポールのリー・シェンロン首相が8月21日の独立記念演説で、男性同性間の性行為を違法とする刑法377A条(ソドミー法)を廃止する意向を発表しました。長い間、LGBTQコミュニティが撤廃を求めて闘ってきましたが、ようやく悲願が達成されそうです。

 
 刑法377A条は男性どうしの性行為やそれを斡旋する行為を2年以内の禁錮に処すると定めた条項(いわゆるソドミー法)で、1930年代の英国植民地時代に導入されました。ブー・ジュンフェンというゲイの映画監督が『タンジョン・ルー』という短編で描きましたが、90年代には実際にハッテン公園でゲイの人たちが逮捕され、鞭打ち刑にされたりしています。
 2007年の法改正の際、「同意の上の私的関係は起訴しない」と政府が公言しましたが、違法とする条文自体は残りました(なお、この法改正の際、異性間のアナルセックスやオーラルセックスを禁じる条項は撤廃されました)
 シンガポールでは基本的にデモは認められていませんが、2009年からホンリム公園でピンクドットという集会のかたちでのプライドイベントが始まり、同法の撤廃を求める声も強くなりました。第10回を記念する2018年のピンクドットでは、シンガポール建国の父、リー・クワン・ユー氏の孫で現在の首相であるリー・シェンロン氏の甥にあたる李桓武(リー・ファンウー)さんがゲイであることをカムアウトしました(詳細はこちら)。翌年には南アフリカ共和国で結婚式を挙げています(詳細はこちら
 何度か裁判も起こされてきました。
 2014年、同性カップルが刑法377A条の撤廃を求めて起こした訴えは、棄却されました。
 2019年、今度は元医師のロイ・タン氏、DJのBig Kid氏、活動家のBryan Choong氏が同法の撤廃を求めて訴えを起こしました。ロイ・タン氏は「現代社会にそぐわないこの古風な法律を撤廃したい。差別を制度化することにより性的マイノリティの人々の居場所をなくしている、そんなシンガポールに誇りを持つことはできない」「この法律は同性愛者を社会的に孤立させ、自殺に追いやる可能性がある」と述べています(詳細はこちら)。2020年、シンガポール高等裁判所はこの法律は「国民感情や信仰を表しており、重要なもの」だとして訴えを棄却しました(詳細はこちら)。今年2月、シンガポール上訴法廷は、ロイ・タン氏らの訴えを退け、同項は引き続き有効であるものの、合意のうえ性行為を行なった男性同性愛者を起訴するような適用はできないとの見解を示しました。タン氏は、「377A項を違憲と認めなかった判決は、表面的には失望させるようにも思えるかもしれないが、同項を行使不可とする上訴法廷の見解は、これから先、多くの法的・社会的影響をもたらすだろう」と、部分的には「意義ある勝利だ」と語り、377A項を廃止する法案の提出を政府に命じるよう求める申請を高等法廷に提出したことを明らかにしました(詳細はこちら

 現職のリー・シェンロン首相を含む歴代の指導者は、この法律はシンガポールの保守的な規範を反映したものだとして、撤廃を拒否してきました。総選挙においても各政党とも同性愛者の権利に関するマニフェストを掲げることもありませんでした。それでも、LGBTQの団体は、2018年にインドがソドミー法を廃止して以降、同法撤廃への意識は高まりつつあると見てきました。2020年には、リー・シェンロン首相と対立し、現政権の批判を強めている弟のリー・シェンヤン氏(ゲイであるリー・ファンウーさんの父親)がロイターに対し、「性的指向の差別反対のうねりが世界的に広がっている」とコメントしています(詳細はこちら

 政府は今年2月、初めてLGBTQに関するパブリックコメント(意見公募)を実施しました。

 6月18日には、3年ぶりにピンクドットが開催され、数万人がピンクを身にまとってホン・リム・パークに集まりました。その群衆のなかには、与党人民行動党のヘンリー・クエック議員や、労働党のジェームズ・リム議員の姿もありました。
 
 こうした流れを受けて、リー・シェンロン首相は8月21日の独立記念演説で、それが「正しいことであり、大多数のシンガポール人が受け入れることができると信じている」と、「現在の社会規範に沿い、シンガポールの同性愛者たちに安心してもらえる」として、刑法377A条の廃止を表明しました。イスラム教やキリスト教の団体などからは、同法の存続を求める声もあったそうですが、日経新聞によると、「性的指向を違法とする法律は時代遅れで、海外から有能な人材を呼び込む際にも障害となるとの見方も強まっていた」といいます。
 しかし、リー・シェンロン首相は同時に、同法の撤廃が家族の伝統や社会規範には影響を及ぼすことはない、結婚の定義や、学校教育、テレビなどのコンテンツ、公共の場所での行動についてはこれまで通りだとも述べ(つまり、同性婚は認められないし、同性愛描写のある作品は上映・放送が制限されますし、学校でLGBTQについて教えられることはないということです)、憲法を「結婚は男女に限る」と修正する意向も表明しました。
 
 まだまだ課題は山積みと言えそうですが、LGBTQコミュニティの悲願であるソドミー法撤廃がようやく実現するということは歴史的な一歩であり、本当に素晴らしいことです。よかったです。おめでとうございます。

 

参考記事:
シンガポール、男性の同性愛行為合法に 首相表明(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM212MY0R20C22A8000000/
同性愛行為を非犯罪化 シンガポール、条項撤廃(共同通信)
https://nordot.app/934090846328111104
Singapore to decriminalize gay sex, but will limit change(NY1)
https://www.ny1.com/nyc/all-boroughs/ap-top-news/2022/08/21/singapore-announces-plans-to-decriminalize-gay-sex

Proud to be back: Singapore's Pink Dot rally makes colorful return(CNN)
https://edition.cnn.com/2022/06/19/asia/singapore-pink-dot-pride-gay-queer-lesbian-rights-intl-hnk/index.html

ディズニー映画がシンガポールで「16禁」に(中日新聞)
https://www.chunichi.co.jp/article/511377

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