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LGBTQ差別発言の荒井元首相秘書官が経産幹部に復帰することが明らかになり、「経産省と首相官邸が差別を容認した」といった批判の声が上がっています

2023年07月06日

 今年2月にLGBTQ差別発言で更迭されていた荒井勝喜元首相秘書官が経済産業省幹部に返り咲いたことが物議を醸しています。
 経済産業省は7月4日、「僕だって見るのも嫌だ」「隣に住んでるのも嫌だ」「同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」などの差別発言で2月に首相秘書官を更迭された荒井勝喜氏を経済産業省通商政策局担当の官房審議官に起用する人事を発表しました。国際関係担当の官房政策統括調整官も兼務します。更迭後は経産省の官房付となっていましたが、幹部に復帰するものです。この人事について経済産業省は「担当している各国との連携や内外の情報収集という業務の継続性と適材適所の観点から大臣が判断した」とコメントしています。荒井氏は「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国との調整なども担います。
 
 
 事の発端は岸田首相が2月1日、同性婚の法制化について「家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ。社会全体の雰囲気にしっかり思いを巡らせた上で判断することが大事だ」と国会で発言したことを受けて、経産省から出向していた荒井首相秘書官が3日夜、記者団の取材に対し、この発言をフォローするかたちで「僕だって見るのも嫌だ」「秘書官室もみんな反対する」「同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」などと発言したことにあります。一夜明けて岸田首相は荒井氏を更迭しましたが、これで「幕引き」とせずさらなる追及を、との声が多数上がり、また、海外にも報道され、批判を浴びました。そこからLGBT差別禁止法を5月のG7広島サミットまでに制定を、との気運が高まり、当事者団体が首相に直接面会して要望したり、性的マイノリティの子を持つ親の有志の会が明確に差別の禁止を規定した「子どもたちの命を守る法整備」を要望したり、緊急院内集会が開催されたり、全国23県の知事有志が共同で、性の多様性を尊重する社会の実現に向けた取組みを国に求める緊急声明を発したり、G7首脳会議に向けてLGBTQの人権保護と政策提言を促進する新たなエンゲージメントグループ「P7(Pride7)」が設立されるなど、大きな動きを見せました。G7首脳会議で「LGBTQの人権を侵害する暴力を非難する」「全ての人々が性自認や性表現、性的指向に関係なく暴力や差別のない生活を享受できる社会を実現する」と明記した声明が発せられたことは素晴らしかったものの、この声明の内容に反し、政府は国際的な基準に沿った差別禁止法ではなくLGBT理解増進法の制定を進め、自民党内で議論されるたびに差別的な発言とともに「後退」「改悪」が進んでいき、さらに衆院で審議される直前、マジョリティの安心に配慮と記した維国独自案の内容を丸呑みした修正案が突然提示、強行採決され、「根本的に変質した」「毒しかない」「差別増進法案」だとして連日の抗議行動が展開されましたが、6月16日、当事者を置き去りにしたまま成立してしまいました。プライドハウス東京やLGBT法連合会、東京レインボープライドをはじめ名古屋、九州・山口、北海道、金沢、沖縄など全国のプライド団体も抗議声明を発しています。
 政権中枢にいる人物による差別発言に端を発して、LGBTQを差別から守る法制度がようやくできるのかと思いきや、逆に差別者に配慮する、カルト教団のような悪意を持った人たちにつけいる隙を与える(「安心できない」などと言ってLGBTQ支援策を阻害することにお墨付きを与える)ような法案を強引に成立させるという、信じ難い結果となりました(本当にひどいプライド月間でした)
 
 LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は「なぜそういう発言をしたのか意図が分かるような真摯な謝罪もなく、本人がどういう思いでいるのかもわからない。LGBTの当事者に動揺が広がっている」と指摘し、LGBT理解増進法について「元の法案が後退し、何を理解増進するかも不明だ」としたうえで「荒井氏の件も重なり、政府には不信感がつのる」と批判しました。
 
 経産省秘書課の小林大和課長は「一連の出来事を本人が深く反省しており、総合的に判断した」と述べていますが、岡山大学の小松泰信教授(農学)は、「このような人事を行う大臣は人事不省」「問われなければならないのは、荒井氏にどのような更生プログラムが施され、いかなる方法によって、氏の不健全な価値観や考え方が改まったことを確認したのか、である」と批判しています。霞が関の関係者は、「本来あの差別発言は、国家公務員の信用失墜行為を禁止した『国家公務員法』99条に問われ、懲戒処分の対象となってもおかしくないものです。政治任用の総理秘書官は、特別職なので懲戒処分を免れたのでしょう。それにしたって、更迭された官僚が幹部に復帰するのは異例です。岸田官邸が認めなければ、ありえない人事ですよ。来年には局長に昇進する可能性がある。入省年次を考えると、荒井さんは事務次官の目も残っています」と語っています。政治評論家の本澤二郎氏は、「岸田首相は、ホンネでは荒井秘書官の差別発言を問題だとは思っていなかったということです。世論がうるさいから更迭しただけでしょう。実際、総理本人も、同性婚について『社会が変わってしまう』と否定的な発言をしていた。あるいは、同じく更迭した長男を総理秘書官に復帰させるための布石なのかも知れない。いずれにしろ、国民をなめている、バカにしているということです」と語っています。また、元厚生労働官僚の中野雅至・神戸学院大教授(行政学)は「官房付になったのに、こんなに短期間で復帰する事例はほとんどない」と指摘、政治ジャーナリストの角谷浩一氏も「喉元過ぎれば熱さを忘れるということだ。後ろめたさもあり、国会閉会中にコソコソ動いた」「荒井氏の言動は明確な差別発言で、単なる不祥事にとどまらない。人権意識が希薄な経産省と首相官邸が差別を容認したに等しい」と批判しています。

 日刊ゲンダイは、『岸田政権「異常人事」の極み』と題した記事で「LGBT差別主義者に国際関係を担当させるのだから、完全に常軌を逸している。日本は国際社会からも奇異な目でみられるのではないか」と批判しています。
 
 SNS上では、「異次元の差別主義者優遇」「官邸と経産省が差別を容認したんだね。自民がLGBTへの差別を悪いとは思っていない証左だ」「この国と首相と政府は如国民をバカにしている。恥を知れ」「差別主義者の顔も見たくない。隣に住んでるのも嫌だ。辞職しろ」といった非難の声が上がっています。

 

参考記事:
首相秘書官更迭の経産省 荒井勝喜氏 大臣官房審議官に復帰(NHK)
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/100686.html
総理秘書官を更迭の荒井勝喜氏が経産省幹部に復帰 大臣官房審議官に起用(TBS)
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/582860
経産省荒井氏が幹部復帰 差別発言で首相秘書官更迭(共同通信)
https://www.47news.jp/9543658.html
経産省・荒井氏、幹部復帰 差別発言で首相秘書官更迭(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023070401060
官房審議官に荒井氏を起用 元首相秘書官(日経新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO72489570U3A700C2EP0000/
LGBT差別発言の元首相秘書官が経産幹部へスピード復帰 更迭からたった5ヶ月、異例人事に批判の声(東京新聞)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/261193
「岸田息子の復帰も早そう」首相が更迭した“差別発言”の荒井氏が幹部に復帰で物議(女性自身)
https://jisin.jp/domestic/2221099/
岸田政権「異常人事」の極み LGBT差別発言で更迭した荒井勝喜氏を経産省幹部に起用(日刊ゲンダイ)
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/325606/
【政界地獄耳】痴漢なら退職だが差別や偏見は許されるのか? 秘書官更迭の荒井勝喜が古巣復帰(日刊スポーツ)
https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202307060000105.html
冥土in JAPAN【小松泰信・地方の眼力】(農業協同組合新聞)
https://www.jacom.or.jp/column/2023/07/230705-67860.php

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