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昨年の新規HIV感染は884人で過去20年で最少に――PrEPの効果と見られます

2023年08月19日

 今年3月、昨年のHIV新規感染報告数は870人(暫定値)とのニュースをお伝えしていましたが、このたび確定値が発表され、新規HIV感染者とエイズ患者を合わせて884人となりました。いずれにせよ、過去20年で最少です。1000人を下回ったのは2003年以来です。
 厚労省によると、HIV感染者は前年比110人減の632人、エイズ患者は同63人減の252人。同性間の性的接触による感染が570人で、全体の64.5%を占めました。保健所などでのHIV抗体検査と相談件数は3年ぶりに増加したものの、いずれもコロナ禍前(2019年)の約半分にとどまりました。コロナ禍で検査機会が減少したこともあり、感染していながら検査につながらず、把握できていないケースもあると見て、厚労省は「感染リスクがある人は検査を受けてほしい」と呼びかけています。

 3月のニュースでもお伝えしましたが、ずっと1000名〜1200名くらいで推移してきたHIV感染報告が、ここにきて(検査数が前年よりも25.6%増えたにもかかわらず)ガクンと減ったのは、やはりPrEPの効果ではないかと推測されます。国立国際医療研究センターエイズ治療・研究開発センター名誉センター長の岡慎一医師も「都内の新規感染は大きく減少しており、PrEPの効果だと思います」と述べています。
 とはいえ、日本でのPrEPをめぐる状況は世界の情勢から見ると格段に遅れており、まだ国が承認していませんし、保険適用もされていません。岡慎一医師は、「PrEPは世界でも大多数の国が承認しています。先進国で承認していないのは日本だけなのに、議論はなかなか進んでいません」「日本は検査の選択肢を増やし、PrEPの薬事承認や保険適用をすべきです。偏見を払拭し、一日も早くU=Uを実現してPrEPを普及させなければ、新規感染者をゼロにすることはできないでしょう」と述べています。(毎日新聞「HIV予防投与を承認しない日本、背景に無理解? 検査体制にも課題」より)
 
 国立国際医療研究センターのエイズ治療・研究開発センター(ACC)病院広報管理部門の菊池嘉部門長は7月28日、ニッポン放送の「モーニングライフアップ 今日の早起きドクター」で、「SH外来での研究によって、PrEPが厚生労働省に認可されていれば、この外来自体がいろいろな形に発展していったはずでした。しかし、未だに認可されず困っている現状があります」と語っています。(ニッポン放送「ゲイ・バイセクシュアル男性を対象にした性感染症の検査と治療を行う「SH外来」の現状と今後」より)

 行政がきちんとPrEP利用の環境を整え、ゲイコミュニティと連携し、促進していけば、驚くべき成果を上げることも明らかになっています。
 英『フィナンシャル・タイムズ』紙の報道によると、ゲイ・バイセクシュアル男性が多く住むシドニー中心部での昨年の新規HIV感染者数はわずか11人で、これまでHIV感染が多発した地域としては類を見ない規模の減少率を記録、HIV感染を「実質的に」根絶したとされています。ニューサウスウェールズ大学カービー研究所のアンドリュー・グルリッチ教授(HIV疫学)は、シドニー中心部で感染を激的に減らすことに成功したのは、HIV抗体検査の受診率を増やし、PrEPの利用を促進するなど地域ぐるみでHIV予防に取り組んだ成果だと述べています。「みんながこの前例にならって行動すべきです」
 世界保健機関(WHO)でHIV・肝炎・性感染症プログラムの責任者を務めるメグ・ドハティ氏は、「政府による資金支援」があってこそ強力な公衆衛生プログラムを遂行できると述べ、「エイズ禍の終息は世界中で一斉に実現するものではない。まずはシドニー、次は別の地域へと、ワクチンが開発されるまで徐々に時間をかけて世界に広がっていくだろう」と語っています。(日経新聞「シドニーのエイズ感染、9割減」より)

 世界全体で見ても、昨年の新規HIV感染者数は130万人、死者は63万人(最も多かった2004年は200万人)で、感染者、死者共に減少傾向が続いています。国連合同エイズ計画(UNAIDS)は感染の終結に向けて、抗HIV薬をより幅広く行き渡らせるなどの取組み強化を各国に訴えています。(中日新聞「エイズ感染、死者共に減少 国連、根絶へ取り組み訴え」)より)
 UNAIDSはまた、「2030年までに公衆衛生上の脅威としてのエイズを終結できる、ただし、世界の指導者が機会を逸しなければだ」としています。UNAIDSウィニー・バイアンイマ事務局長は、「われわれは依然としてエイズ終結の軌道にはいない」としながらも、政治・経済的選択により「軌道に乗せることはできる」と述べました。(時事通信「エイズの脅威の終結、2030年までに可能 国連」より)
 
 世界のエイズ対策といえば、先月、ブリスベンで第12回国際エイズ学会HIV科学会議(IAS2023)が開催されましたが、このIASでアジア太平洋地域におけるトランスジェンダー女性のHIV感染率が一般人口の約66倍も高いことが報告され(衝撃的ですね…)、この問題を解決するためにPrEPプログラムの整備が急務であるとされました。
 報告を行なったメルボルン・セクシュアルヘルスセンターのワリッタ・ティエオサプジャロエン氏は、PrEPプログラムの整備には当事者のニーズや健康上の課題に対して理解を深めることが肝心であるとしたうえで、アクセス可能なコストやサービスの提供、医療従事者の教育や啓発など、総合的なアプローチが必要である、無料かつ副作用のない注射※や定期的なSTI検査の提供が望まれると述べました。こうした条件が満たされれば、PrEPの利用率は最大で87%まで増加するとも。

※従来のPrEPはツルバダなどの抗HIV薬を毎日飲まなくてはいけませんでしたが、ViiV社が(塩野義製薬、グラクソスミスクライン、ファイザーの資本参加も受けて)開発したカボテグラビルという長時間作用型注射剤がこれに取って代わろうとしています。米FDAはすでに2021年12月にカボテグラビルを承認しており(詳細はこちら)、欧州でも、この7月に欧州医薬品庁(EMA)が承認を勧告し、今後、欧州委員会において承認可否が判断されることになっています(詳細はこちら
 
 ゲイ・バイセクシュアル男性だけでなく、トランス女性のHIV感染を予防するうえでも、日本でPrEPを受けやすくなるような環境の整備が求められます。早くPrEPが薬事承認され、保険適用されることを望みます。
 



参考記事:
HIV報告1000人下回る 昨年884人、過去20年で最少 厚労省
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023081800937

「IAS 2023」で衝撃の発表!トランスジェンダー女性のHIV感染率は一般人口の66倍……急がれる対策とシステム整備とは(TABI LABO)
https://tabi-labo.com/307272/wt-gpt-generated-ys001

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