先生は猪突猛進が座右の銘の人。

先生はたびたびそれを口にする。

そして、「先生は猪突猛進タイプだから」と

言うと照れた表情をする。

この言葉は免罪符だ。

先生は、習慣を大切にする人。

決まった粉コーヒーを

決まった時間タイミングで頂く人。


その日は、先生の買い物に付き合った。

ドイツでお世話になった老夫婦に

贈り物をしたいという希望で、

合羽橋の食品サンプル屋を巡った。

和食器を置いてある店、

教務用品が置いてある店、

店々を巡った。

柄物の箸は小さく実用的。

箸置きは猫のモチーフが愛らしい。

醤油差しも侘び寂びが効いてる。

それらかさばらないもの、一通りみた。


先生は、散々悩み、悩み抜いて

ステーキとジョッキビールの

食品サンプルを購入した。

実用的でもない、かさばる、重たい。

購入してしばらくしてから

気がついた様子だった。

この日は夏の盛り

日向は鉄板のように熱い。

屋外の暑さと店内の涼しさで

クタクタになっていた。

「これ、重たいけどどうしよう」

ポツリと呟く。汗だくになっていた。

その時、

「ああ、先生は永遠のお人なんだ」

非効率をいやがる先生。

不文律をさける先生。


帰り道、喉の渇きを潤すために、

ジュースバーに寄った。

スカイブルーの

ライチジュースを注文した。




わたしは

田舎の家の出来事を、思い出して

先生にそれを伝えた。


わたしは大人に憧れて

真夜中に深夜放送のトラック運転手

御用達のラジオ番組を聴いていた。

日野自動車のコマーシャルが

はさまる番組だった。

大人の嗜むだろう、

ブルーハワイのお酒を呑みながら、

夜更けから明けるのを待っていた。

その時の色に

ライチジュースはよく似ていた。

ノスタルジックな気持ちになっていると、

先生は

「それ走れ歌謡曲?」と合いの手。

「そう!それ!それです」

「あー、わたしもよく受験の時聴いてた」

「えっ45年以上前の話ですよね?」

「あー、そう、懐かしいね」

「先生と25歳差ですよね?」

「あー、そうそう。

君が25の時わたしが50だったからね。

懐かしいね」


先生は決めたら行う人。

初志貫徹の語尾に

ハートマークが付くような発音をする人。

先生の飲む粉コーヒーは

甘くもったりしている。

先生は業務に追い詰められると

後頭部にオデキをつくり、それを

逐一報告してくれる人。

そしてそれを確認させる人。

先生は永遠のお人なんだと思う。