「93歳のゲイ」僕はなぜ秘密を明かしたか MBSドキュメンタリー
「セックスは一度もしたことないよ」。カメラを前に、男性はそう語る。93年間、ひとりで生きてきた。
「僕には秘密があったんです」
MBSのドキュメンタリー番組「映像’22」が6月26日深夜(27日午前)に放送される。人生の晩年でようやく、胸の内を明かす93歳に密着する。
交際・結婚せず
「これしか飲まへん」
カメラが回る中、冷蔵庫から牛乳「特濃4・5」を取り出し、パックごとゴクゴク。
肌つやがいい顔のアップの映像は、長年生きてきた骨太な生命力を感じさせる。よく笑い、よく話す。
けれど長年、詩作で使うペンネームでしか、自分の気持ちを打ち明けられずにいた。4年前、89歳で、ここ大阪・西成に引っ越すまでは。
長谷忠さんは1929(昭和4)年生まれ。出身は香川県だが、ふるさとと呼べる縁はない。
愛人の子として育ち、子どものころから男性が好き。初恋は小学校の男性教員だった。
14歳でひとり旧満州(中国東北部)へ。そのまま終戦を迎え、帰国後は大阪で働く。
恋人はひとりもつくらず、結婚もせず。秘めた思いは、日記代わりの詩に書いてやり過ごしてきた。
「いるんや」
地縁も血縁も薄い半生、ちぐはぐな性。苦難の多い人生を、カメラは「個人的な物語」として映さない。
「(同性愛者は)少ないかもしれんけど、いるんや」
昭和1桁生まれの世代にとって、ありのままの性を生きることがいかに困難だったか。文献や識者の証言を交え、性的少数者への差別の歴史をひもとく。
番組ディレクターの吉川元基さんは、93歳という年齢にひかれて取材を開始、撮影時間は約3200分に及んだ。
長年性をひた隠し「人生を選ばされた人」(吉川さん)が、なぜありのままの自分をさらけ出すようになったのか。
スケールの大きな60分番組に仕上がっている。
「映像’22 93歳のゲイ~厳しい時代を生き抜いて~」はMBSで6月26日深夜(27日午前)1時15分。7月からMBS動画イズムで配信。
今、長谷さんは、LGBTの勉強会などに参加し、自分の経験を若者らに伝えています。なぜ自らの性を語るようになったのか。転機となったのが西成の街との出会いでした。どんなところなのか、何が生き方を変えたのか。朝日新聞の記者が街を歩きました。
「ポーンと入ったんよ、この街に」
長谷さんはあっさりと言う。
4年前、89歳の夏、引っ越した。
気の合う仲間が初めてできたから。
ずっとひとりだった人生が変わった。
「よく決断しましたね」…