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レポート:TRP2024(1)広場の様子

2024年4月21日まで代々木公園イベント広場で東京レインボープライド(TRP)が開催されました。過去最大規模で盛り上がり、「“性”と“生”の多様性」を祝福する実りの多い豊かな祭典となりました。5回に分けてレポートをお届けします。 

レポート:TRP2024(1)広場の様子

 強風のため1日目がまさかの中止となる悲しい幕開けとなりましたが(予定されていた「プライド30th スペシャルデイ」ステージプログラムに関しては、また日を改めて何かしらの形でお届けできるよう検討中だそうです)、東京レインボープライド2024「プライドフェスティバル」が4月20日(土)・21日(日)、過去最多となるのべ27万人(土曜12万人、日曜15万人)が参加して盛大に開催されました。
 日本でプライドパレードが始まってから30周年という節目を祝う特別な企画も行なわれ、また、「変わるまで、あきらめない。」を掲げ、結婚の自由をはじめLGBTQの権利回復(法整備など)を求め、過去最高の15,000人がパレードしました。協賛団体数も314で過去最高となりました。
 本当に巨大なイベントとなったTRP。あまりにも盛りだくさんで、カバーしきれていないところもたくさんあるのですが…5回に分けてレポートをお届けします。
(取材・文:後藤純一)


広場のにぎわい

 20日(土)10:45頃に会場に到着。すでにたくさんの人たちが来られていました。いよいよTRPが始まるんだなぁというワクワク感がありました。午後になるとさらに人が増えてきて、友人・知人にもたくさん会いました。21日の日曜はさらに人出が多くて、歩くのも一苦労なほどでした。
 
 SNSでも「イケメン多かった」という声が上がっていましたが、今年も会場にはたくさんの方たちが来られていて、え、今までどこにいたの?と思うような目の覚めるようなセクシーボーイとすれ違ったり、X(Twitter)で見たことがあるイケメンが「実在」していたのを確認した、といった体験をされた方、とても多かったのではないでしょうか。 
 ブースにGOGOさんもたくさんいらっしゃいましたし、有名な方たち(ちくわモデルさんとかYouTuberの方たちとか)も結構たくさん会場にいらしたので、なかには「推し」と写真を撮ってもらったり握手してもらったりした方もいたことでしょう。
 
 ちょっと歩いてるだけで企業系ブースの方がいろんな物をくれたり(友人と一緒にいた若い子が「こんな配布イベントだと思ってなかった」と言っててウケました)、いろんなブースのアトラクションを楽しんだり、お酒を飲んだり、イケメンと写真を撮ってもらったり、ステージでライブを聴いたり、ゲイだらけ…ではないですが、ゲイ多めの、LGBTQが安心して楽しめる&LGBTQコミュニティを祝福する野外フェスを満喫できたのではないでしょうか。
 
「楽しかった!」という声が数えきれないくらいたくさんSNSに上がっていますが、そのことが何よりもTRPの成功を物語っていると思います。

 

 
出展ブース

 本当は19日(金)の1日目、ステージイベントが始まる15時までの間にブースを集中的に見て回ろうと思っていたのですが、あいにくの強風で中止となり…。例年、ステージイベントの合間にブースも回って、パレードもできる限り全体を見届け、2日間が終わったらしかばねのようにダウン…ということを繰り返してきましたが、今年はさらにレインボーステージが増えて、ブースもけやき並木を全部使うくらいの300以上のボリュームとなり、一人では無理だと思っていたので、長年の友人のカケジク(レズビアンだけどゲイコミュニティの一員でもあるような。以前SPEEDERというバンドのボーカルもやってました)に応援を頼み、レインボーステージとパレードの撮影をお任せしたのですが、プライドステージとブースは自分担当なので、山ほどあるブースを見て回ることが果たしてできるのか…と悩みました。でも、中止になった以上、仕方ない、もう、できるだけたくさんカバーするという方針はあきらめて、ポイントを絞って取材しよう、必死の形相で広場を走り回るのではなく、いっそ自分も楽しもうと決めました。そしたら気持ちに余裕も生まれたし、結果的にいい感じに見て回れたんじゃないかと思いました。
 以下、多彩な出展ブースをご紹介します(取材した順です)

 
 LGBTQツーリズムブースは、今年は大阪観光局とスペイン政府観光局でした。こちらでお伝えしたように、今年の秋、アジアで初めてIGLTA世界総会2024が大阪で開催されます(10月23日(水)〜26日(土)だそうです)。スペインは再来年の総会開催地ということで(IGLTA世界総会は奇数年がアメリカで、偶数年がアメリカ以外での開催という持ち回りになっています)、バトンを渡す意味もあって一緒に出展しているんだそう。大阪観光局の立石さんは、「私たちがLGBTQツーリズムに取り組み始めたのが2018年で、大阪の観光事業者と連携して啓発を行なったり、ドラァグクイーンを起用したりしてきました。昨年IGLTA総会が決まり、東京の皆さんにももっと知ってほしいということで、初めてTRPに出展しました」と語っていました。スペイン政府観光局の風間さんは、「スペインはLGBTQのツーリストのみなさんを積極的に受け入れています。とてもオープンです。ぜひみなさんに楽しんでいただきたいです」と語っていました(以前バルセロナのプライドを体験しましたが、本当に楽しかったです。スペイン大好き。また行きたい!)


 プライベートケアクリニックのブース。都営新宿三丁目駅からBYGSビルに行く途中の通路にSASUKEさんの大きな広告が出ているのを見たり、イベントでSASUKEさんの写真入りのグッズのセットをもらったりしたことがある方、多いと思います。今回もSASUKEさんをはじめたくさんのGOGOさんやクイーンさんが一緒に写真に写ってくれるというサービスを展開。目立つ場所にあって、写真待ちの行列ができる人気ブースでした。

 ぷれいす東京、akta、MSM ALL JAPAN(全国にあるHIVなど性の健康の情報発信をするコミュニティセンター・団体の活動をご紹介)の合同ブース。二丁目仲通交差点に看板を出しているヴィーヴヘルスケアがスポンサーになっているそうです(素晴らしい)。ぷれいす東京(30周年おめでとうございます!)のブースでは、PrEPのご案内などのほか「第2回LASH調査報告書」(主にゲイ・バイセクシュアル男性を対象とした性行動・恋愛観・薬物使用・HIVへの意識・メンタルヘルスなど)の冊子もいただきました。aktaのブースでは「GO 20’ Next!〜aktaのこれまで、これから展」がバージョンアップされたかたちで展示されていたほか、検査キットの自販機があったり、いろいろ楽しめるアトラクションがありました。


 9monstersのブースでは、チャペルが設けられ、タキシードやウエディングドレスを借りて同性(カップルだけでなく、一人でも、何人でも)結婚式ができるようになっていました。GOGOのAkiさんが衣装も用意し、エスコート役もつとめてくれて、周りでナイモンボーイズやドラァグクイーンのみなさんが祝福して「CAN YOU CELEBRATE?」を歌ってくれたりという幸せ空間になっていました(こちらに結婚式を挙げたカップルの動画が載ってます。ホント素敵です)。幸せの鐘が場内に何度となく鳴り響いていましたね〜。

 新宿二丁目ラウンジは、ワンコイン検査会とたくさんのクラブパーティによるミニイベント、そしてフード販売が一体となったユニークなブースでした。HIV陽性者やトランスジェンダーの方など一般の保険会社では断られてしまう方々でも加入できることで絶大な支持を得ている(二丁目で開催されるBDSMイベントなどにもれなく協賛し、万が一事故が起こっても保険でカバーしてくれているという点でも素晴らしい)パートナー共済の小吹文紀(ふ〜みん)さんは2022年、身近な20代の知人が相次いでHIV感染がわかったという経験を経て、昨年、二丁目に集まる人たちにもっと情報提供や検査を、との思いで、(保健所等の許可を得るために山のような書類を提出したり、いろんなクリニックとつながったりという尋常じゃない努力をして)aktaやパートナー共済事務所でのワンコイン検査会を実現しました。二丁目だけでなく、上野の「GATT」やVITAのプールパーティなどでも行なうようになりました。そして今回、「2030年までのHIV流行の終結」という目標の達成に貢献すべく、TRPにブース出展し、史上初のパレード会場でのHIV検査会を実現したのです。これを成功させるために、ただ検査をやるのではなく(たとえば大阪の「swtich」や名古屋の「NLGR」がそうであったように)コミュニティのいろんな人たちとコラボし、楽しいお祭りとして展開したい、ということで、RainbowEventsをはじめとするたくさんのイベントのみなさん、たこりんをはじめとする二丁目の飲食店のみなさんも快く協力し、ベアクリニックをはじめいくつものクリニックの医療スタッフも一緒に待機し、という前代未聞のブースが出現しました。ふ〜みんさんによると、すぐ近くのTRP救護ブースとも連携し、例えば熱中症で倒れた方の治療もできる体制になっていたそうです(わざわざ水道も引いたんだそう。スゴい熱意です)
 15時過ぎ、けやき並木の辺りでたまたま、セクシーイベントでよく会うお友達にばったり会って、彼はTRPに来るのが初めてだと言い、どう過ごしたらよいか戸惑っているような感じだったので、新宿二丁目ラウンジに行くといいよ、と言って、でも人ごみもすごいし、たどり着けるか心配だったので、じゃあ、と案内することにしました。そうしたら偶然、(去年まで「BAKU-ON」という名前だった)「G-ROPE(グロープ)」の緊縛ショーが始まりました。DJは友人のKAZUbouくん。縛り師のVESPERさんが、ミリタリーな服を着たマッチョな方とともに登場し、彼を縛っていきます。EDMに合わせ(しかも大好きなZEDDの「Stay The Night」)、パフォーマンスとしての「魅せる縛り」を披露。「観念した」ようにも見えるマッチョなモデルさんの澄んだ瞳も印象的で。しかも難易度の高い「吊るし」まで…(モデルさんも体に負荷がかかるので、本当に大変。信頼関係がないとできない技です)。吊り上がったところでVESPERさんは、用意していたお花を飾りはじめ…(バンクシーの「花束を投げる男」を思い出しました。あとでVESPERさんはXに「戦争から平和へ」というテーマだったと書いていました)…正直、涙をこらえることができませんでした。検査会の成功のために、二丁目のみなさんが心意気を持ち寄り、このような素晴らしいパフォーマンスを披露してくれたことに、言いようのない、深い感動があふれてきたのです。続く銀次さんのショーも、わざわざフランスから取り寄せたというレインボーカラーの特別なロープを最後に飾るという演出で、素晴らしかったです。TRPには初回から欠かさず参加してきましたが、ブースでこんなに感動したのは初めてです。
 こうしたみなさんの協力のおかげで、なんと、2日間で362名もの方々がワンコイン検査を受けてくれたんだそうです(たとえ無料でもそんなにたくさんの方が検査を受けることってなかなかないですよね。検査を受けてくれたみなさんを一人ひとり抱きしめたい気持ちです。感動しかありません)
(※なお、このパフォーマンスの写真を切り取ったSNS投稿で炎上騒ぎが起きていますが、下記、別の章で書きたいと思います)








 JTのブースでは、PloomX Advanced(私も持ってますが使いやすくていい感じです)のスペシャルなレインボーカラーのフロントパネルを無料交換してくれたり、アメスピのサンプルももらえたり、愛煙家には本気でうれしいサービスをしてくださってました。

 レインボーカラーの梱包テープを展開したことで話題のAmazonのブースでは、LEGOのミニフィギュアをはじめ、Amazonで買えるLGBTQ関連商品を展示していたり、巨大なダンボール箱に入って写真が撮れるサービスも人気でした。

 SONYのブースでは、カメラマンに写真を撮ってもらってそれを加工したりコメントをつけたりできるというデジタルフォトサービスを展開。たまたまパレード名物のポケモンさんが撮影していたので便乗して撮らせてもらいました。

 Campy!barのブースの前でアロムさんにお会いしました。デイヴァインそっくりなメイクの方はCampy!barのマンガリッツァさんという方です。

 IKEAがフードブースを出していて、サンドイッチマンならぬホットドッグマンもいたりして、意外というか、ちょっとビックリしました(他のイベントではものすごくオシャレなインスタレーションを出品してたので)

 InterFMのブースでは、ブルボンヌさんのトークとOSHさんのDJという素敵コラボな番組がお届けされていたそうです(すみません、友達に教えてもらって駆けつけたのですが、終わった後でした…)

 プライド30周年記念のブースでは、90年代のパレードのドキュメント映像が流れていたり、寄せ書きがあったり、記念冊子やグッズなどが販売されていました。レジェンド・南定四郎さんもいらっしゃいました。



 毎年恒例ですが、入口付近ではお客さんと一緒に写真に写ってくれて寄付を募るためにたくさんのドラァグクイーンの方々がフォトブースに立っています。本当におつかれさまです!

 アートの持つパワーで誰もが自分らしく生きていける社会を目指し、「Beauty Blenda」というビジュアルアートエンターテインメントショーを開催しているハウスオブ外食のブース。ゴージャス!でした。

 ウォルト・ディズニー・ジャパンは意外にもTRP初出展です。レインボーカラーのスティッチ、かわいいですね。来年はぜひレインボープーさんを!とお願いしてみました。

 長年パレードや映画祭にブース出展しているNiji-depotさん。いつも明るく元気なお二人です。L&G Timpaniという名前だった頃から数えて今年で20周年だそう。おめでとうございます!

 人気アンダーウェアブランド・GX3のブースではレイチェル・ダムールさん&セクシーGOGOBOYさんと一緒に写真を撮れるサービスを展開。

 ラジオ第一で初めてTRPを生中継したり、日頃からLGBTQサポーティブな番組を多数届けてくれているNHK。今年もレインボーどーもくんがブースに来てました。

 5月19日にZepp Shinjukuでドラァグクイーンの祭典『OPULENCE』が開催されます。日曜のプライドステージにも登場した(「小峠英二のなんて美だ!」にも出演していた)ヴェラ・ストロンジュさんに会えました。

 新宿御苑前のLGBTQセンター「プライドハウス東京レガシー」を拠点に様々な支援活動を展開しているプライドハウス東京のブースもありました。

 渋谷側のゲート付近に大きなスクリーンが設置されていて、プライドステージの様子が映し出されていました

 Marriage For All Japanのブースでは、国会議員に手紙を書こうプロジェクトを展開していたほか、(仕組みはよくわからないのですが)ARとやらの技術を使ってスマホを選挙ポスターにかざすとその候補が同性婚に賛成かどうかがわかるというなんかスゴいシステムをお披露目していました。今話題の東京15区補選から実用化されるそうです。

 全国のプライドイベントのネットワーク「JPN」のみなさん。遠方からこんなにたくさん集まってくださってました(おつかれさまです)。このあと早速、20日に開催された京都レインボープライドのレポートをお届けする予定ですが、g-lad xxでも今年も頑張ってできるだけたくさんの地方のプライドイベントを紹介していきたいと思っています

 こんな感じで、全体から見ると本当にごくわずかなのですが、頑張ってたくさん、紹介しました。
 社内でカムアウトしてブース出展に携わっているゲイの方も何人もいて、その中にはかつて一緒にパレードの実行委員をやった(同じ釜の飯を食った)同志である大切な友人もいて、うれしくもあり、感慨深くもありました。そういう時代になったんだな…というよりも、何十年も前から、社会を変えるために、血や汗や涙を流しながらパレード運営に関わったり、声を上げたり、それぞれの持ち場で活動してきた一人ひとりのみなさんのおかげで、そういう時代が訪れたのだと思います。
 
 最後に、(人が多すぎて)私自身は気づかなかったのですが、今年のTRPには、パレスチナに連帯を示すバッジや黒い服を身に着けた方たち、ピンクウォッシュに抗議する方たちも参加していました(ハフポストで報じられています)。昨年末の段階でTRPに、イスラエル大使館や、パレスチナの市民社会からボイコットが呼びかけられていてTRPへの協賛実績のある企業2社からの協賛は受けないでほしいと要望する公開質問状が送られていました。これに対しTRPから「今年はイスラエル大使館や当該企業2社は協賛していない」とのコメントが出されましたが、SNSで「事実に反する」との批判が上がり、再度TRPから「遺憾にたえません」「団体としても、日々LGBTQ+の人権課題に取り組んでいるスタッフ一人ひとりも、みな心を痛めており、即時停戦を願っています」とのコメントが発せられました。
 
 2日間のTRPを終えて、(2001年にTLGPの実行委員としてパレードの運営に当たったり、長年パレードを取材してきた)私が思ったのは、プライドイベントというのは、LGBTQのビジビリティを高めるとか世間にLGBTQの権利回復(法整備など)を訴えることが主眼であるのは確かですが、それだけでなく、年に一度、LGBTQコミュニティのみんなが喜びを共有できる祝福の空間であり、自分らしい性のありよう(例えば彼氏と手をつないだり)を安心して表現できる「ハコ」でもあるわけで、そういう意味では、会場の内側でTRP自体に抗議の意を表明する人たちもいれば、コミュニティの仲間を思う気持ちで素晴らしくセクシーでアーティスティックなパフォーマンスを披露する人もいるのなら、こんなに度量の広い素敵な「ハコ」はないだろう、まさに「“性”と“生”の多様性」を祝福する祭典と言えるのではないか、ということでした。これからもそのようなイベントであり続けてほしい、と思いましたし、運営にあたったスタッフやボランティアのみなさんに心から拍手を贈りたい気持ちになりました(21日にTRPが終わった直後は)

 

緊縛ショーへの非難について思ったこと

 SNSで目にした方も多いでしょうし、スポーツ紙がニュースにして広く知られることにもなってしまったので、今回の緊縛ショーのことを批判・非難している方たちにちょっと考え直していただけたら…という気持ちで、書いてみたいと思います。
(私があのショーでいたく感動したことは上記でお伝えした通りです)
 
 批判が起こったきっかけは、悪意を持ったアンチと目される人の投稿が拡散されたことですが(あの画像を子どもも見るかたちで上げている時点で、どうなの?って感じですよね)、LGBTQコミュニティ内でも広くいろんな意見が見られました。裸(褌)への批判と緊縛というエロティックなパフォーマンスへの批判が混ざっている印象ですが「ノンケ社会に認めてもらおうとしてやってるのに逆効果」「自分はああいうのと一緒にされたくない」「性的指向はいいけど性癖は隠しておくべき(秘すれば花)」「子どもの目に触れるようなところでは慎むべき」…などなど。
 
 そもそもプライドパレードとはどういうものかというと、1960年代、一般社会に受け容れられよう、認めてもらおうっていう品行方正な同性愛者による穏健な「ホモファイル運動」っていうのがあって、『LGBTヒストリーブック』にも書かれていますが、ビシッとスーツを着てホワイトハウスの前をぐるぐる回るようなかたちのデモをしたりしていました。しかし、警察のいやがらせや暴力がやむ気配はなく、日常的に取り締まりを受けていたドラァグクイーンやトランスジェンダーが各地で小さな蜂起をするようになり(警官に灰皿を投げつけたり)、その火が一気に燃え上がったのが1969年のストーンウォール暴動で、それがGAY解放運動のブレイクスルーとなり、翌1970年にストーンウォール1周年を記念して最初のプライドパレードが開催されました(この時、主催者たちは、「GAY POWER」ではなく「GAY PRIDE」を提唱しました。GAYたちがあまりにも抑圧されていて、どうやって誇りを持ち、カムアウトしてよいかもわからなかったからです。「私たちはまず誇りを持たなくては」ということです)。ハーヴェイ・ミルクの時代にも、表に出ないけどロビーイングとかで社会を変えようとする穏健派の人たちがいたのですが、ミルクはみんなに「カムアウトしよう、大勢でパレードに参加しよう!」と呼びかけ、パレードを盛大に成功させるためにレインボーフラッグが誕生し、カリフォルニア州で同性愛者や支援者の教師を解雇できるようにする州法が成立しそうだったのをやめさせることに成功したのです。異性愛者(多くは男性で、中高年だったり)が牛耳る社会でお偉いさんに媚を売って「温情」として権利をありがたく頂戴するようなやり方をよしとしない姿勢、たとえどんなマイノリティであっても、胸を張り、私たちは奴隷でも二級市民でもない、マジョリティと対等に扱われる権利がある!と堂々と声を上げるのがプライドです。ある意味、「プライドのはじまり」は「過激な」運動だったのです。

 必ずしもパレードに参加するだけがプライドではなく、例えば私の元パートナーは「ゲイだからとバカにされないように、人一倍仕事を頑張る」というかたちでプライドを持って生きてきましたし(パレードは歩かないけど、フロートの車の運転で参加したこともあります)、人それぞれにプライドの持ち方があると思います。でも、地方で孤独を感じていた若い方などがパレードで大勢が「陽の当たる大通り」を歩く様を見て励まされたり、パレードのおかげで自分のセクシュアリティを肯定的に受け容れることができたというような話もたくさんあり、(運営に当たる人たちは本当に苦労が絶えず、東京ではその大変さゆえに開催できなくなったことも度々ありましたが)パレードがあってほしい、続けられてほしいと多くの方たちが願っていることと思います。
 
 一方、ゲイが差別され、周縁化=社会の片隅に追いやられ見えなくされてきたことのベースには、男性身体嫌悪とでも言うべきものがあったと思います。
 「保毛尾田保毛男」みたいな露骨なものから軽いいじりみたいなものまで、ゲイは本当に長い間ずっと世間から侮蔑や嘲笑の対象とされてきましたが、同時に「男性の裸」もまた、嘲笑され(テレビのバラエティ番組で罰ゲームの時に上裸のマッチョが出てくるなど、尊敬ではなく笑いの対象でした)、拒絶され(2008年の蘇民祭ポスター事件を思い出しましょう)、隠され、抑圧されてきました(『an・an』などでメールヌードが掲載されたりはしましたが、あくまで女性目線であり、ゲイのためのものではありませんでした)。それはメディアや広告、世の中に表れ出るイメージの多くがホモソーシャルな感性の男性たちによって支配されてきたからです。ホモフォビアの中心には「男性の裸」への嫌悪や、裸の男たちがセックスすることへの嫌悪があるのです。
 レズビアンがノンケ男性からポルノ的な目線で見られることにNO!を言うように、ゲイもまた「男と見れば犯す」的な偏見と闘いながら、世間基準ではない自分たち基準で男性の裸を称揚し、その美しさやセクシーさを愛でる文化(GOGO BOYSのショーなど)を生み出し、自分たちがセクシーだと感じる肉体をパレードの場で誇ることで、異性愛規範のエロスが支配する世界に風穴を開け、奪われたものを取り戻そうとしてきたのです。
 三社祭の褌とか浅草サンバカーニバルとかはOKで、なぜパレード会場の片隅でひっそりと行なわれたショーはだめなのか、という反論に対し、SNSで「そんな日本の伝統文化と一緒にするな、ゲイ野郎」という暴言のような投稿がありましたが、それはまさに今回の難癖がゲイ差別であるということを如実に物語っていると思います。もともと抑圧されてきた男性の裸や男どうしの性愛がプライドを持って白日の下に現れ出たとき、それを許せないと感じ、罵ってしまう、そういう心性をホモフォビアと言うのです。
 
 それから、重要なのは、今回のショーが、HIV検査を促すためのブースの中で、ゲイ・バイセクシュアル男性に向けて行なわれたということです。男の裸は忌まわしいものでも醜いものでもないし、ゲイセックスはちっとも悪いことじゃない、ぼくらの性をありのままに肯定し、自分や仲間を愛し、誇りを持っていこう、というメッセージがHIV予防啓発では本当に重要です。昔からMSMの間では、世間のホモフォビアを内面化してしまって「こんな乱交的で卑猥でいやらしいセックスをしているのが悪い」などと感じ、卑屈になったり、ゲイというアイデンティティすら持てない人たちも大勢いました。ゲイに不寛容な社会では、同性間の性行為はスティグマを刻印され、ゲイの自己肯定が困難になり、ゲイセックスは地下に潜り、検査を受ける人も増えず、HIV予防がうまくいかなくなってしまいます。異性愛者を装うストレスがメンタルに悪影響を与えたり、未来に希望を持てず、自暴自棄になってリスキーなセックスをしてしまう人もいるということも、日高先生のReachOnline調査で明らかになっています。そういう社会を変えようとしながら、陽性者のリアリティにも寄り添いながら、多様なゲイセックスをまるごと抱きしめ、愛し、誇っていこうとするスタンスが、長谷川さんLiving Togetherをはじめ、ぼくらのコミュニティが大切にしてきたことでした。
 
 さらに言うと、80年代のエイズ禍の時代、アメリカでは「これは神がゲイに与えた天罰だ」などと言って保守派が攻撃を強め、政府も何の対策も取らず、ゲイコミュニティの人たちがバタバタと亡くなっていくという危機的な状況があり、そうした中で、レズビアンもトランスジェンダーも一緒に立ち上がり、「We are here! We are queer! Get used to it!」と言ってありのままの自分たちを打ち出し、プライドとともにパレードしたのがクィアの運動の始まりでした。世間の蔑視を逆手にとり、標準的でない性のありようの人たちが連帯し、異性愛規範に抗い、抑圧的な社会に物申す運動です。
 アメリカでは9.11以降のナショナリズムの高まりとも相まって、社会に物申さず、「私たちは乱交的で卑猥なゲイではありません、ノーマルです」と言って、差別的で抑圧的な異性愛規範に無批判なまま、社会のなかで有利なポジションを獲得しようとする同性愛者も現れ、「ホモノーマティビティ」だと批判されています。
 
 歴史を振り返ってみると、アメリカではかつて、同じゲイの中でも(女装差別や太っている人たちへの差別もありましたが)レザーやラバーなどを着てBDSMを嗜むKinkyなゲイたちが、“品行方正”で“ノーマル”なゲイたちから差別されていたという話があり、だからこそ「レザープライド」を掲げてコミュニティの結束力を高め、旗を掲げてパレードを歩くようになりました。
 日本のゲイコミュニティでもSMやフィストなど様々なKink(マイナーな性的嗜好)への偏見がいまだにあると思います。今回もSNSで「変態」とか「過激」という言葉が散見され、胸が痛みました。黒猫(褌)と緊縛との組み合わせは確かにとてもエロティックですが、そんなに「変態」でしょうか? 緊縛はセクシャルでもあるけどアートでもあり、とても高度なパフォーマンスです。直にご覧いただければきっと、リスペクトの気持ちが湧いてくると思います。
 二丁目でも昔は六尺などの褌に対して偏見がありました。しかし、乱雄會の方たちが(Shangri-Laなどでも)六尺イベントを開催し続けてくれたおかげで、カッコいいものとして認知され、みなさん慣れ親しむようになりました。緊縛はそれこそ「BAKU-ON」(現「G-ROPE(グロープ)」)が始まってからクラブでカッコよく縛るパフォーマンスが見られるようになり、縛りの講習会があちこちで開催されるようにもなり、ずいぶんイメージが変わってきたと思います。
 そうしたなかで、今回のパフォーマンスがありました。新宿二丁目ラウンジを取り囲んだ数十人の観客の皆さんからは拍手が起こりました。司会のラビアナさんも「素晴らしかったですね」と讃えていました。
 
 レイチェル・ダムールさんが11年前にTRPのメインステージでドラァグから男姿になって服を脱いでいって、最後にきわどいパンツ一丁になって大きなレインボーフラッグを振るという素晴らしいパフォーマンスをしたり(子どもたちも見てました)、2019年にGOGOフロートを歩いた方たちなども、TRPという「“性”と“生”の多様性」を祝福する祭典で、セクシュアリティの礼賛や、ゲイ基準での男性の裸の称揚というプライドを見せて、この異性愛規範に染まった(ついでに言うと性に保守的な)社会を少しだけカラフルに塗り替えてくれました。今回のショーで私が涙したのは、そういう意味でもあります。
 そもそも日本は(明治以降)性をタブーにし、忌避する風潮が根強くあって(性解放が進んでいないのです)、また、乱交パーティが摘発されたり、性的なイラストにさえ墨を入れさせるなどの過剰な取り締まりもあり、先進国とは思えない、非常に保守的な社会です。MSMの人たちが世間のセックスフォビアとホモフォビアを内面化し、セックスに後ろめたさを感じたり、HIV感染したのはインランなせいだなどと思ってしまうことも多かったのではないでしょうか。
 いつか、ちょっと無修正画像を上げただけで逮捕されるようなことがなくなり、ゲイ目線でのセクシーが世の中にあふれ、セクシャルな意味でも自由で平等な社会が実現したらいいですね(「性解放なくしてゲイ解放なし」です)。あきらめずに、変えていきましょう。
 
 という感じで終われたらよかったのですが、一点だけ、議論や検討に値する話があると思います。ゾーニングの問題です。
 お子さんには見せたくない、(いわゆる男性嫌悪とは区別して、例えば過去に男性から性暴力の被害を受けて男性の裸体や性行為に対してトラウマがあるなどの事情で)そういう場面を見せられることに恐怖を覚えるので目に入らないようにしてほしい、といった声を無視することはできないですよね…きちんと向き合わなくてはいけないと思います。
 今回はイベント広場内とはいえ、ステージ前ではなく道路寄りで喫煙所の横にある、比較的親子が少ないエリアのブースの「中」で行なわれましたし、人だかりがすごくて、子どもが見ることは物理的にありえず(保護者が子どもを抱きかかえて見せない限りは)、たまたま通りかかった女性とかがモデルさんの全身を見ることもなかったはずで、正直、ほとんど問題ないとは思うのですが、可能性がゼロかと問われると…うーん、ゼロとは言えないでしょうね…という感じなので、その辺りを(ハナから“過激”だと禁止するのではなく)関係者が考え、話し合い、落としどころを見つけていけたらよいのではないかと。例えば、ブースの手前で何らかのWARNINGをするとか、そういうショーの時だけちょっと囲いをして希望者のみ観れるようにするとか。やり方はいろいろあるのではないでしょうか。
 裸体やKinkyな表現には最大限のリスペクトを払いながらも(決して禁止とかはせず)、ゾーニングについてだけは配慮するようなかたちで、来年以降もぜひ続いていってほしいと願うものです。

【追記】2024.4.24
 記事について新宿二丁目ラウンジの責任者である小吹(ふ〜みん)さんに確認をとったところ、このようなコメントをいただけました。
「緊縛ショウの開催時についてですが、本来はブースの奥で行ない、観客もブース内に収める予定でした。しかし、木曜日の施工の段階で90インチモニターの脚が想定外に大きく、急遽ステージを据置から大工による施工とすることとなり、翌金曜日の開幕直前に完成させる予定でした。これが強風による業者含む全員退避で、間に合わせることができなくなり、DJブースやパフォーマンス位置の変更を余儀なくされ、吊り床の位置もご覧いただいた場所となりました。しかし、1年間みんなと一緒にやり続けてきた全てのナイトイベントにパフォーマンスをしていただきたい、緊縛ショウだけを中止にはしたくないとの一心で、人垣でその場を囲って、人の流れのところに私自身を含めた3人で交通整理をして、お子さまから見えないようにするなど、可能な限りの配慮を尽くしたつもりです」
「今回、『2030年までにHIV流行を終わらせる』という信念のもとブースを出展し、賛同してくださった169名もの方々の協力を得て、1500名を超える方々にご来場いただき、362名に上る多数の方々にワンコイン検査を受けていただけました。「新宿二丁目」のパワーを集結することで一見遠大な目標を達成することは決して夢ではないと思えました。本当にありがとうございます」

【追記】2024.4.26
 26日放送のニュース番組「ABEMAヒルズ」(ABEMA TV)に小吹さんが出演し、ブース出展の意図について語っています。
 番組の中でコメンテーターの石戸諭さん(記者 /ノンフィクションライター)は、ショーそのものに反対じゃない、ブース自体に文脈がある、性のこともカルチャーの一つで切り離せない、大事なのはワンコイン検査を公園で受けられるということ、HIV感染もすごい減ってるわけじゃないし、梅毒は増えてるなかで、感染の機会がある人たちに、こういうショーをすることで入りやすくするということ、ゾーニングはやった方がいいよねというのはあるけど、ショー自体やめた方がいいというのは乱暴だと思う、とコメントしていました。

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